夢の翼4
洞窟に入ると両脇にある蝋燭が一斉に灯る。一定の間隔で並べられている蝋燭のおかげで明かりの心配をする必要はなさそうだ。
「親切だね」
ジューダは嬉しそうに微笑む。
クレイは内心、そんなジューダに呆れながら先を急ぐ。
「待ってよ、クレイ」
慌ててクレイに並びジューダも歩く。ジューダは頼もしげにクレイを見ている。
「一緒に試練の洞窟を受けることができて良かったよね、クレイ。クレイが一緒なら鬼に金棒だよ」
ニコニコとしまりのない顔のジューダに蹴りをいれたくなるクレイだが無視して歩く。
「やっとおじい様も僕とクレイが旅立つのを許してくれてみたいだし、後はこの試練の洞窟を攻略するだけだね」
いとも簡単にジューダは言ってくれるが、クレイにはこの試練の洞窟には巧妙な罠が仕掛けてあると思っていた。しかも祖父の陰謀で。
あのくそじじいが、そう簡単にジューダの旅立ちを許すわけがない。絶対ジューダにこの洞窟をクリアさせない気なのだろう。
「とんだ、とばっちりだ!」
クレイはジューダに聞こえないように舌打ちをする。
この洞窟、普段より難易度があがっているに違いない。いつも以上の罠や敵が仕組まれているのだろう。
「くそっ!」
クレイの考えに呼応するように前方から魔物の姿が見えた。
ジューダとクレイは素早く剣を構え、敵を迎え撃つ。
そんな祖父の企みに何も気づかないジューダをクレイはムカつきながらも羨ましく思った。
守護神の眩しい緑の瞳を見つめると、自分が森の中にいるような気分になる。
リアナはジューダとクレイが試練の洞窟へ向かった後、興奮がさめなくて守護神の祠に足を向けた。
「落ちついたかな?リアナ」
祠に入るやいな、守護神にジューダとクレイが冒険に出る事の出来る喜びを騒ぎ立てたリアナだが、守護神に一目見つめられると、木々のざわめきがおさまるようにリアナの心も平静を取り戻した。
「まだ喜ぶのははやいよ。2人が試練の洞窟をクリアしたわけではないのだからね」
「あら、お兄様は負けないわ」
ちっともジューダの勝ちを信じて疑っていないリアナはにっこりと微笑む。
「これでお兄様の夢が叶って、私は村の長になれる。全てがうまくいくんだわ…」
すっかり陶酔しているリアナに守護神は顔を曇らせる。リアナは試練の洞窟の真実の役割をしらないのだ。
「リアナ」
守護神はリアナの髪を優しくすくった。彼女がここに来たら、守護神はその真実を教えようと思っていた。
「私は君を村の長にしたい」
いつもならぬはっきりとした口調にリアナは表情を引き締めた。
「ジューダよりも君のほうが村の長にふさわしい。ジューダには翼があるが、君には緑の木々が見える。君は村を、この森を愛している…」
リアナは黙って守護神の言葉を聞いた。緑の瞳がまっすぐリアナの瞳を見つめている。
「しかし、ジューダにも村の長としての資格はあるのかもしれない。見抜くのは試練の洞窟だ。そして、もし結果が出てしまったら、もう誰もその結果を覆すことはできない」
リアナは緑の瞳に吸い込まれたように食い入るように見つめる。
「いいかい、よく聞きなさい…」
「…」
守護神の言葉にリアナは目を見張った。やはり、祖父はくそじじいだった。そんな大切なことを言わないなんて…
「そんなどうしよう…」
リアナが慌てる様子を見て、
「大丈夫だよ、リアナ」
守護神は安心させるように優しく微笑む。
「守護神様…」
その笑みにリアナは一息つく。守護神が力をかしてくれるなら怖いものなど何もないはずだ。
「私がリアナを試練の洞窟の中腹に飛ばしてあげるよ」
しかし、すっかり守護神を当てにしたリアナに守護神は期待を裏切るようなことをアッサリと言った。
「…」
言葉も出ないリアナに守護神は更に追い討ちをかける。
「最奥部まで運んでもいいのだけれど、それでは試練にならないからね。ジューダが試練に挑んでいるんだ。君も君の望みを得るために戦いたいよね」
そう言われてはリアナに返す言葉もない。力なくうなだれるリアナに守護神は小さく笑みを漏らす。
たとえ守護神であろうとも、すっかり頼られては困るのだ。長になるならば、これぐらいは自分の力でなんとかしてもらおう。若い内は苦労を買ってでもしろというし…
「準備はいいかい?リアナ」
「はい!もう、どうにでもしちゃってください!」
開き直ってリアナが勢い込む姿を守護神は愛しそうに見る。
「守護神様、待っていて下さい。私絶対に村の長になります。私を選んでくださった守護神様と村のみんなと、何より私自身のために!」
そこには満面の笑みを浮かべたリアナがいた。臆している様子は微塵もない。そこには堂々と戦いの地へ向かう戦士の姿があった。
守護神はそこにジューダと祖父の姿を見た。
血は争えないな…
守護神はリアナの決意を感じ取り、大きく腕を広げた。