夢見る町の住人たち7





「フィーラさん、フィーラさん」
 私を呼ぶ声が聞こえ、私はうっすらと瞳を開けた。
 目の前には心配そうに私の顔を覗き込むライズ君の姿があった。
「大丈夫ですか?」
 相当ひどい顔なのか、ライズ君は一層心配そうに私を見つめてくる。
 ライズ君から目をそらすと、真っ赤な目をしたラウル君と目が合った。ラウル君も心配そうに私を見ている。
 私はそのまま視線を動かした。頭上に木が見える。どうやら私は木の根元に横たわっているらしい。
「…ここは森の中?」
「森の外です。気づいたらここに倒れてたんです」
 それからライズ君は私が気を失っていた時のことを教えてくれた。
 私が気を失うと同時に襲った闇は、私だけでなく二人にも襲ってきたらしい。その時二人はそのショックで気を失った。
 初めに気がついたライズ君は自分が森の外に出られたことを知った。
 後ろにはあの謎めいた森が何食わぬ顔をして葉を揺らしていたと言う。
「それからラウルを起こして、フィーラさんを起こしたというわけです」
 ライズ君は簡単に話し終えると急に顔を曇らせた。
 ああ、この子は気づいているんだわ…
 ライズ君の表情を読み取り、私は静かにほほ笑んだ。
「あの人はね、私の夫カウンテスなの」
「えっ!」
 いきなり言われてライズ君は困ったような顔をした。
「…すみません。なんか俺顔に出てましたよね。気になるって」
「いいのよ。別に隠しておくことじゃないし」
 私たちの会話についていくことが出来ない様子でいるラウル君は不満そうな顔でこっちを見ていた。
 その様子に気づいたライズ君は説明しようと口を開いたが言いづらそうに私の方をチラリと見た。
 ラウル君はライズ君の説明をじっと待っていたが、いくら待っても話をしてくれないので私に説明を求めてきた。
 私は仕方なくあなたについてのことを話し始めることにした。
「後からやってきた本国の騎士はね、私の夫だったのよ」
「後からやってきた本国の騎士って…」
 あの惨劇を思い出したのかラウル君は眉をしかめた。
「そっか…」
 その一言を残し、ラウル君はグッタリとうつむいてしまった。
 ライズ君は絶望的な顔をして木の根っこに寄りかかっていた。
 この状態でパーラフェイズの町に行っても悲しみを募らせるだけだわ…
 誰一人話すこともなく重苦しい沈黙が辺りを包んでいた。
「あのがらの悪い大男がフィーラさんの言う事を大人しく聞いたのも旦那さんが騎士様だったからなんですね」
 木の根っこにもたれていたライズ君が急になんの関係もないことを話し始めた。
「えっ、ええ」
 いきなり言われてわけもわからないながらも一応頷く。
 どうしたのかしら。いきなり、どうでもいいようなこと話して…
 ラウル君も同じ気持ちらしく怪訝な顔でライズ君の顔を窺っている。
「あの時はなにも知らずにフィーラさんを巻き込んでしまったけど、まさかこんな繋がりがあったなんて人生っておかしなものですね…」
「ライズ君…?」
 ライズ君がなにを言いたいのかよくわからなくて、ライズ君の顔をじっと見つめているとライズ君はニコリとほほ笑んだ。
「俺はパーラフェイズの町に行きます。森で見たことが真実だったとしても、この目でもう一度パーラフェイズの町を見たいから…」
 ライズ君は立ち上がり、パーラフェイズの町の方向へ体を向け、遥か彼方パーラフェイズの町を見つめた。
 その目に見えるはずのないパーラフェイズの町が映ったように見えた。
 この子はまだ希望を持っている…
「フィーラさん。強制はしません…俺と一緒にパーラフェイズの町に行ってくれますか?」
 振り返りライズ君はしっかりとした顔立ちで私を見つめ、返事を待った。
「もちろんよ。私にとっても無関係なことじゃないもの…ライズ君、これからもよろしくね」
「ありがとう…フィーラさん」
 ライズ君は目を細めほほ笑んだ。
「おいっ。俺も行くぞ!」
 今までシュンとしていたラウル君がいきなりガバッと立ち上がった。
「兄ちゃんとフィーラだけで行かせないからな」
「わかってるよ。誰もおまえだけ仲間はずれにしようなんて言ってないよ」
 すねたラウル君の顔を見てライズ君は笑い出す。
「それならいいけどさっ」
 いつもの雰囲気が戻ってきて私はホッとし、ほほ笑んだ。
 大丈夫。まだ歩いていけるわ…
「よしっ、行こうぜ。パーラフェイズの町へ!!」
 ラウル君が元気よく叫ぶと、私たち三人はパーラフェイズの町へと走り出していた。



『next』     『novel-top』