夢見る町の住人たち2
第一章 謎の兄弟、登場!
この世は私になんの恨みを持っているのだろうか?
最愛の夫を亡くし、心の傷を癒そうと旅に出ている私に新たな傷を負わせようとしてくる。
なんの因果か、私はひょんな事からある二人連れの兄弟を拾う事になってしまった。
何故か不思議なほど好かれてしまい、私は二人と一緒に二人の故郷へ行くことになってしまった。しかも、その故郷というのが、最愛の夫を私から奪った町、パーラフェイズなのだ。
町の名を聞く事さえも嫌なのに、何故この足でその町の土を踏み、この目でその町を見なくてはならないのか。
これは一種の嫌がらせと言わずになんと言うべきか。この世は私に残りの人生、全ての不幸を今背負わせようとしているしか思えないほどである。
それは旅に出ようと家から一歩踏み出した時から始まった。
「ふざけんじゃねー、このヤロー。嘘ばっかペラペラほざきやがって!!」
なにやら威勢の良い怒鳴り声が私の鼓膜を揺さぶった。
驚いて前方を見るとワラワラと人だかりが出来ている。先ほどの威勢の良い怒鳴り声の主は、どうやら人だかりの中心にいるらしい。さしずめ、この人だかりは野次馬といったところだろう。
「やめろ、ラウル。こいつらになにを言っても無駄なんだから」
どうやら一応仲裁役はいるらしい。だが、それが全くの意味を持っていないことが中心から聞こえる、ドカッ、バキッという、殴る蹴るの乱暴の音でわかる。
私は溜息をもらすと、野次馬を蹴散らしながら中心へと向かった。
中心では、例の怒鳴り声の主であろう少年が一方的にがらの悪い大男にやられていた。
仲裁役の少年が懸命に怒鳴り声の主の少年を取り押さえようとするが、怒鳴り声の主の少年がそれを振り切って勇ましくがらの悪い大男に向かって行くものだから、仕方ない。
がらの悪い大男は面白いおもちゃを見つけたという風に、やってもやっても向かってくるおもちゃを楽しそうに痛めつけている。
たくっ、馬鹿ばっかりなんだから。
私はもう一度深い溜息をつくと、怒鳴り声の主の少年たちに向かって歩き出した。
三人はいきなり現れた女、私にびっくりしているようだった。ぴたりとがらの悪い大男と少年二人の間に立ちはだかる。
グルリと三人を睨み回す。
「あなたたち、公衆の面前でなにをやっているの!?」
威厳を含んだ声で荒々しく問いかける。問いかけるまでもないが、一応お約束と言うことで聞く事にする。
「ゲッ!いや、あんた…あなた様はフィーラ様で」
私を見た途端、がらの悪い大男の顔が真っ青になった。
「いやあ、ただこのボウズが俺に武道の教えを被りたいってんで仕方なく相手にしてただけなんですよ」
デヘデヘとお愛想笑いを湛えながら、ヘコヘコとがらの悪い大男は腰を低くし、言い訳を始める。
「あなたが武道を人に教えるなんてねえ…」
「いやだな、フィーラ様。俺、こう見えても立派な武道家なんですぜ」
疑いの目をかけるとがらの悪い大男は、いっそう腰を低くして理由を取り繕った。それが嘘なのは百も承知だが、ここでそれを責めてもしょうがない。
「まあ、いいわ。さっさとここを去りなさい」
そう言うと、がらの悪い大男は一目散に逃げて行った。
フゥと溜息をつく。
たくっ、本当に馬鹿ばっかり。
周りにいた野次馬も私が出現した同時に逃げ出していた。その速さには感心してしまう。
もう誰もいなくなっただろうと町の出口に向かおうとすると、
「あのう」
小さな、遠慮深い声が背後から聞こえてきた。
振り返ると例の少年二人がいた。呼びとめたのは仲裁役の少年だった。
「どうもありがとうございました。困ってたんです。こいつが無鉄砲だから」
こつんと仲裁役の少年は片方の少年の頭を軽く叩く。
「だってよぉー。兄ちゃんだって腹たっただろ、あのヤローの言葉に」
叩かれた少年は自分のしたことが間違ってないと言わんばかりに抗議をし始める。
兄ちゃん?そっかこの二人は兄弟なのか。
よく見てみると確かに目の部分など似ているところがある。
礼儀正しいお兄さんと血の気の多い弟君ってとこね。
なかなか可愛い二人を見てクスッと笑みをこぼす。
「なに笑ってんだよ、テメー」
私が笑ったのをちゃっかり見ていた弟君は自分を馬鹿にしていると思ったらしく、つっけんどんに突っかかってきた。
「やめろって」
お兄さんはそんな弟君を止めるべく襟首を掴む。
「おまえな、助けてもらった恩人になにするんだよ」
「うるせえー。どうせあのヤローとこいつはグルなんだよ。じゃなきゃ、なんであのヤローがこんなババアにひれ伏すんだよ!」
ピクリッとこめかみに青筋が立つのを私は抑え切れなかった。
…バ、ババアですって!こんな若い私をババア呼ばわりするなんて…
「冗談じゃないわよ。なんで私があんながらの悪い大男とグルになんなくちゃならないのよ。失礼だわ、まったく」
急に不機嫌になった私にお兄さんの方はびっくりしたらしい。
「そんなに怒らないで下さいよ。お姉さんがあの大男とグルだなんて思ってないですよ。弟はただ気が立ってるだけなんです」
お兄さんがフォローをいれるが私はその中の一言しか聞いていなかった。"お姉さん"という言葉しか。
"お姉さん"。それこそ私にあった言葉だわ。
一瞬にして機嫌が良くなった私に二人は首を傾げていたが、それは無視することにする。