夢見る町の住人たち11





 私は広場へ着いた…はずだったんだけど…
 全速力で駆けて行くライズ君に追い付けるはずもなく私は一人置いていかれてしまった。
 右も左もわからず、私は途方に暮れていた。
 これを世間の人々は迷子というのだが…ああ、まさかこの歳で迷子になるとは…
 情けなく思いながらも私は適当に町の中をうろうろしていた。
 すると偶然か、それとも運命のお導きか、前方に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 あなた!
 私は天の助けとばかりにその声の方へ向かう。
「あなた!」
 あなたの姿を見た瞬間、私の顔は一気に強張った。
 あなたは地面に横たわってぐったりとしていた。ところどころに血の跡も見られる。
 それを囲むように剣を持った三人の青年が倒れたあなたを嫌悪の目で睨みつけていた。
 その光景を見て私は思い出した。あなたと別れる時に迫って来た大群の足音を。
 青年たちは私に気づかず、黙ったまま剣を構えている。
「もう一度言おう。私たちに協力してくれるな?カウンテス」
 青年は剣をあなたの頭上に掲げる。キラリと刀身が光る。
 あなたは答えず、ただ黙って地に伏していた。
 青年はそのあなたの姿に説得を諦めたのか、仲間に目で合図を送りつけた。仲間はゆっくりと頷いた。
 青年は仲間の許しを得て、剣を両手で握り直した。その顔は不気味なほど青白かった。そうまるでパーラフェイズの町の外で見た満月のように。
 青年は剣を頭上に上げ、勢い良く振り下ろした。
「ダメ〜!!!」
 気がつくと私は青年を突き倒していた。
 どうここまで走ってきたのかも、どうやって青年を突き倒していのかも全くわからなかった。ただ頭が真っ白になって体が勝手に動いていた。
 ただあなたを助けたくて、ただそれだけの為に体が動いていた。
「フィーラ!」
 いきなり現れた私にあなたはびっくりしていた。
 だがさすがは騎士。あなたは咄嗟に倒れていた青年をレイピアの柄で殴り、青年を気絶させた。
「あなた!!」
 私は叫んだ。あなたの後ろに仲間の一人が襲いかかったのだ。
 あなたは私の叫びに反応し、その仲間に後ろ回し蹴りをお見舞いする。
 キャー!やったー!!あなた、カッコいいー!!
 思わずミーハー気分になって喜んでしまう…歳に似合わないことをやってしまった。
 それはともかく私はあなたの無事を喜び、あなたのもとへ駆け寄ろうとした。その時、
「フィーラ!」
 あなたが悲鳴を上げた。
 背後に殺気を感じ、私は振り返ろうとしたが、
 ドンッ!
 といい音が後ろから聞こえてきた。
 なにかしら?
 と、後ろを向いてみると、そこには仲間の一人が転がっていた。その前には棒を持った兄弟のお母さんが立っていた。
 どうやらお母さんが棒で仲間を殴ったらしい。
「フィーラさん!」
 棒を強く握り、お母さんは強い瞳で私を見た。その目はかつて戦争の時兄弟君を町から逃がした時の目だった。
 私はその目でお母さんの思いを悟り、ニコリとほほ笑んだ。
「行きましょう、ライズ君とラウルくんのもとへ!」
 お母さんは力強く頷いた。
 もうお母さんから冷たさを感じなかった。その代わり強い力を感じた。母として子に対する力を、その力に温かさ、優しさ、そしてなによりも強い願いがあった。子供の未来の希望への強い願いがある。そして今まで育ててきた思い出がその力を更に強くしていた。
 私はその力に感動した。そして羨ましくもあった。
 私もそんな力を持ってみたいわ…
 私にはもう持てない。その力を持てる日はこないわ…だってその力の源を産み落とすことが出来ないから。一緒にその源を作ってくれる人はもういないのだから…
 私はうつむき、ギュッと唇を噛んだ。
 その頭をポンと優しく叩いてくれた人がいた。
 あなた…
 私は頭を上げ、ジッとあなたを見つめた。
 あなたは私を見て寂しげにほほ笑んだ。
「フィーラ…」
 あなたは口を開け、首を傾げた。
「ところで、どうしてこんなところにいるんだ?」
 うっ…痛いところを突いてきたわね
 情けないけど正直に言うわ。いえ、恥じることじゃないわ。だって私はこの町に来たのは初めてなんだもの。道に迷ったって変じゃないわ。
 私は自分を正当化させ、勇気をもって言った。
「道に迷っちゃった」
 テヘッと笑う私にあなたとお母さんは凍り付いた。
 ヒュ〜
 冷たい風が吹いた…



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