次の日、唯は学校を休んだ。
「唯ちゃん、学校来なかったな。風邪でもひいたかな?」
帰りの電車に揺られながら、怜哉が口を開く。
「そうだな…」
唯が休んだ理由はわかっていたが、俺は適当に相槌を打った。
「翔は気にならないのかよ?」
ちらりと怜哉が探るように俺を見る。
「…気になるよ」
感情のこもってない俺の答えに怜哉が顔をしかめた。
唯のことは気になる。唯が今日学校を休んだのは、昨日俺が唯に嘘をついて芹花に会っていたことが原因なのだろう。
俺はそのことを今日唯に謝ろうとした。しかし唯は学校に来なかった。ショックが大きいのか、怒っているか、どちらにしても日をおいて頭を冷やしたかったんだと思う。
「明日は来るかな?」
「…たぶんな」
俺の気のない答えに怜哉はとうとうぶち切れたようだ。
「翔は唯ちゃんのことが心配じゃないのかよ!?」
怜哉が叫ぶと乗客が驚いたようにこちらに目を向ける。
「おい、怜哉」
乗客の視線を気にして、怜哉を落ち着かせようとするが、怜哉は気にすることなく声を上げた。
「昨日、何かあったんだろ?だから唯ちゃん学校休んだんだろ?」
怜哉の言葉にぎょっとする。何でこいつ知っているんだよ。
「お前と芹花を見てればわかるんだよ。いかにも2人の間に何かありましたって雰囲気をプンプン漂わせやがってよ。唯ちゃんが学校に来ない理由みえみえなんだよ!」
怜哉の言葉に乗客が好奇心の色を見せる。これは恥ずかしい。
ちょうど良いタイミングで電車が駅に着いたので、俺はまだ途中だが怜哉を引っ張って電車を降りた。
「おい、何だよ」
引きずられながら、乗客の視線を一考に気にしない怜哉が文句を言う。
俺はそのままホームの端まで怜哉を連れて行く。
「怜哉、電車の中で叫んで恥ずかしくないのか?」
冷静な俺に怜哉は余計腹が立ったようだ。
「今はそんな話しじゃないだろ!」
怜哉は俺のそんな言葉を取り合わず、怒りに身を任せて詰め寄ってくる。今にも飛び掛ってきそうな勢いだ。
「お前ら、唯ちゃんに何をしたんだよ!?」
話さなかったら殺すというばかりのオーラが怜哉から発せられ、俺は仕方なく口を開いた。
嘘も隠しもせず、俺は怜哉に全てを話す。はじめはつりあがっていた眉もだんだんと下がってくる。
「…お前。馬鹿か?」
話しを聞いた後の怜哉の言葉はそれだった。
俺は言い返す術もなく、情けない思いでその言葉を受け止めた。
「確かに俺は馬鹿だよ」
開き直ったような口調の俺に怜哉が冷たい視線を送る。
「本当馬鹿だよな!」
追い討ちをかける怜哉の言葉がぐさりと俺の胸につき刺さる。しゅんとうなだれてしまった俺を怜哉は横目で見て、ため息をつく。
「それで翔の心はどっちにあるわけ?」
「はっ?」
「だから翔は唯ちゃんと芹花、どっちが好きなんだよ」
怜哉の奇異な質問に俺の頭は動きを止めた。微動しない俺を見て、怜哉は先ほどよりも大きなため息をつく。
「芹花に相談されて翔の心はググーッ!と芹花に傾いたんだろ?芹花は初恋の人だからコロリといっちゃう気持ちもわかるけどな。それで、唯ちゃんよりも芹花のこと好きになっちゃったのか?」
怜哉に質問の内容を説明されても俺の脳は動きを見せなかった。
「わかんないわけね…」
呆れたように怜哉が俺を見る。
「まあ、がんばって足りない脳みそ使って考えてくれや。どっちにしてもはっきり答えはだせよな」
これ以上つきあってられないとヒラヒラと手を振りながら、怜哉はそのまま来た電車に乗っていってしまった。
残された俺はそれでも動くことができずに、ずーっとホームに突っ立っていた。