MINE1
今日はいつもと学校が違って見える。
どうしてだろう。窓から見える景色はいつもと何もかわらないのに。
窓側の前から4番目の席、4時間目に1番眠くなるこの席も変わってないのに。
数学の先生のつまらない余談話の内容はいつもと同じ。隣の仲の良い子と笑っているあの子の声だっていつも通り。
1列挟んで斜め前の彼女を見るぼくの日課も実行されている。
彼女だってぼくが見ている事に気づきもしないで真面目に授業に取り組んでいるし、何も変わってないのにどうしてこんなにぼくは今日を特別な日に感じてしまうんだろう。
3時間目は移動教室。
ぼくはいつもの道を独りで歩いて行く。
下を向いて歩く。先生と目が合わないように、挨拶をする勇気がないから。
教室にはぼくが最初に着く。
教室に入ると悪戯書きが黒板にびっしり書かれてあった。
どうしたんだろう。
ぼくは驚く。
後ろから来た男子がこの悪戯書きの事を話している。
どうやら、どの教室にもこんな悪戯書きが書いてあったらしい。
ぼくはその話をもっと詳しく聞きたかった。
けれど、男子の中に入って行く勇気がない。
ぼくは仕方なく席に着く。
間もなくして先生が来た。
先生は黒板の悪戯書きに気づくと急いでそれを消した。
ちょっとイライラしているみたいだった。
4時間目は国語。
4時間目になるとぼくの席は太陽に光でいっぱいになる。
あったかくて眠くなってくる。
先生の話なんて全部素通りしてしまう。
それでも何とか眠らないように頑張っているんだけれど…
ダメだ。まぶたがどんどん重たくなってくる。
ジリジリジリ〜
何だ!この音は。
ベルの音がいきなりぼくの耳に怒鳴り込んできた。
非常ベルの音だ。
ベルの音が止まると放送が流れてきた。
どうやら、このベルの音は悪戯だったらしい。
それを聞いて先生は溜め息をつく。
「またあの子ね」
と、つぶやく。
その意味深な言葉に男子生徒が問う。
先生はその問いにスラスラ答える。
あの子というのは黒板の悪戯書きをした生徒と同一人物らしい。
その生徒はこの2つの悪戯の他、色々な悪戯をしているそうだ。
籠に入ったバスケットボールを体育館に撒き散らしたり、理科室の戸棚に入ったビーカーを机の上に並べたり、1階のトイレのトイレットペーパーを全部隠したり。
先生が怒りながら話しているうちに4時間目終了のチャイムが鳴った。
一部の男子は授業がつぶれた事を喜んでいる。
ぼくは教科書をかたし、購買へ昼食のパンを買いに行こうと立ち上がった。
わざと遠回りになるように購買へ行く。
ちょうど人がいなくなる時間帯に購買に着くように。
廊下を歩いている時に変な音が聞こえてぼくは立ち止まった。
ボチャッバチャッという音だ。
その音は水だった。
水面場の蛇口が全部開いていたのだ。
これも例の悪戯だろうか。
ぼくはその蛇口に触れることも恐ろしく、そのまま購買へ行ってしまった。
ぼくは裏庭の草の茂みで昼食を取る。
ここなら誰にも会わない。
昼食を食べ終わりぼくは茂みに寝転びくつろぐ。
すると、ガサゴソとぼくの隣の茂みから音が聞こえてきた。
何だろう。
ぼくは茂みから顔を出しそっと隣の様子を探る。
そこには1人の生徒がうさぎを抱えていた。
そのうさぎには見覚えがあった。
ぼくの席から1列挟んで斜め前の彼女が可愛がっている学校のうさぎだ。
男はそのうさぎを抱き近くの木に近づくと、いきなりぼくの方を振り向いた。
「これ欲しい?」
振り向くなり男はそう言った。
ぼくはその男の顔を見て息が喉に詰まった。
酷く驚いた、呼吸ができなくなる程。
何故ならその男は"ぼく"だったから。
「これ欲しいだろ?彼女の可愛がっているうさぎ」
もう1人のぼくは愛しそうにうさぎを撫でる。
ぼくは気軽にそんな事ができてしまうもう1人の自分を羨ましく思った。
「ぼくはこれから還ることにするよ。君はどうする?」
「えっ」
「君はもう自分のやりたいことをやったの?」
ぼくはもう1人のぼくが言っている事がわからなかった。
やりたいことって何だろう?
それに還るって、どこへ?
「…そうか、君はあの時の記憶を消してしまったんだね」
もう1人のぼくはそう言いうなずくと、ぼくに近寄ってきた。
ぼくはもう1人のぼくが来るのを待った。
別に怖くなかった。違和感もなかった。ただ不思議と安らげた、まるで足りなかった半身に出会えたようなそんな安心感があった。
「昨日の事を思い出してごらん。昨日君とぼくが学校帰りにあった事を…」
記憶が遡る。
もう1人の言葉の呪文通りにゆっくりとぼくの頭の中で時間が逆流していく。
今日の4時間目、3時間目、2時間目、1時間目、朝のSHR。
そして…
突然、頭の中が真っ黒になった。
真っ黒ってどういうことだろう?
眠っている時間のこと?
そう思っていると急に視界が開けた。
激しいクラクションの音。
そして目の前には車が…
…!
空だ。
ぼくは空を浮いている。
真っ赤だ。
空が赤く染まっている。
夕焼けなんだ、目の端に夕日が見える。
凄く綺麗…