「夢の翼」と「誓いの未来へ」コラボ作品5
「クレイ…」
心配するべきなのか、自業自得と言うべきなのか。ジューダは何だか情けなくなってしまい、クレイに背を向けシェルクのもとへ向かった。
シェルクの傍らにはすでにカイルが心配そうな表情でシェルクを見つめていた。
「シェルクさんは大丈夫ですか?」
ジューダがシェルクの顔をのぞき込むと、シェルクは意識を取り戻していて、弱々しく微笑んでくれた。
「大丈夫です。ちょっと衝撃を受けただけ」
シェルクはカイルの腕をかり、立ち上がる。その足取りはおぼつかないものだったが、意識ははっきりしているようだった。
シェルクは白い花に近づいて行く。蝶は近づいてくるシェルクには、無関心に花に戯れていた。もう、興味すらないようだ。
「シェルク」
「大丈夫。もう、この蝶は僕たちを襲わないよ」
いつ蝶が攻撃してくるか不安そうなカイルに、シェルクは自信に満ちた笑みを浮かべる。
「どうして、わかるの?」
不思議そうに尋ねるジューダに、シェルクは困ったように首を傾げる。
「何となくだけど」
不可解な答えだがジューダは、それ以上シェルクに尋ねることはしなかった。何故だか、シェルクの言うことが信用できると思ったから。
花の前で止まり、シェルクがカイルを見上げる。
「カイルがとって」
いきなりの指名にカイルが驚く。
「俺が!?」
「カイルなら、白い蝶も攻撃してこないよ」
半信半疑だったが何も言わず、カイルは花の前で膝をつき、恐る恐る指を伸ばした。
カイルは指先で花をつつき、何もないことを確認して花をとる。
「…本当に何も起きなかった」
ジューダは目を丸くして、シェルクを見る。種明かしを促されてシェルクが言葉を選ぶように口を開く。
「僕もはっきりとわからないけれど、きっとカイルはこの花に選ばれたんだよ」
「俺が花に!どうして?」
「それは僕にもわからない。でも、クレイさんが花に飛び出さなくても、きっと花はカイルを攻撃しなかったよ」
眉を寄せながらゆっくりと考えながら話すシェルクに、カイルは納得がいかない表情を見せる。
しかし、ジューダは白い花がカイルを選んだ理由がわかったような気がした。
「白い花は、カイルさんがシェルクさんを守ったから選んだんだね」
カイルの手にある花を見つめ、ジューダが目を細めると、カイルが照れたように花を揺らす。
「そうなのか?」
花に聞くと、微かに輝いたように見えた。
「どうやら、本当にそうみたいだな」
白い花の攻撃を受け、倒れていたクレイがよれよれになりながら、3人に近づく。誰も手を貸さずに、その姿を見ていると、
「ほら、この張り紙を見てみろよ」
街の壁に貼って合った紙をクレイがヒラヒラとかざす。
「その張り紙がどうかしたのか?」
カイルがその紙を受け取り、内容を見る。
「違う。裏を見るんだ」
クレイに指摘され、カイルは紙を裏返した。
「あ、何か書いてある」
紙を覗き込んで見ていたジューダが、裏の紙面に文字を見つけ声を上げる。
そこには、
『この白い花は真実の恋人同士だけが手に取れる試練の花。その試練に打ち勝てば、必ず2人は幸せになれるでしょう』
と書かれてあった。
「なるほど。だからシェルクを庇った俺が花を手に入れることが出来たのか」
カイルが納得したように白い花を見る。
「そうなんだよ」
全員が読んだことを確認して、クレイはカイルの手から張り紙を奪い取る。
「こんな大切なことを裏に書くんじゃねえ!!」
大声で叫び、クレイは力任せにビリビリに張り紙を引きちぎった。
クレイの怒りに3人が黙って頷く。表に書いていてくれたら、こんな苦労はしなかったのに。
「くそうっ!!」
細かく千切れた紙を、クレイが宙に投げる。花びらのように舞い上がったそれを見つめ、ジューダが嬉しそうに微笑む。
「笑うな!」
「だって奇麗だよ」
「金のほうが奇麗だあー!!」
やけになって空に叫ぶクレイに呆れながら、ジューダは呆然と紙吹雪を見上げる2人に視線を移す。
「どうしたの?」
シェルクに声をかけられ、カイルとシェルクはお互いを見つめ笑い合う。
「ああ、そうだな」
見つめ合うことで意思の疎通が成り立ったのか、2人は頷き、カイルは白い花を空へ放った。
ジューダとクレイが口を大きく開けて見つめる中、白い花は弧を描いて崖下へと落ちて行く。
「何してるんだ!!」
クレイがカイルの胸倉を掴みかかり揺さぶる中、カイルとシェルクは晴れ晴れしい笑顔を浮かべていた。