「夢の翼」と「誓いの未来へ」コラボ作品6





 クレイの恨みがましい言葉をずらずらと聞かされながら、4人は街に戻って来た。
「もったいない、本当にもったいない…」
 クレイは白い花にかけられた賞金に未練がましく、ボソボソと呟く。
「2人が決めたことなんだから、いい加減に諦めてよ」
 白い花を持って帰ってきても、自分にお金が入るわけではないのに、どうしてクレイがここまで拘るのかジューダにはわからない。
「あの花は、恋人たちの試練の花だから街に持って帰るわけにはいかないですよ」
 クレイの恨みのこもった視線をカイルがサラリと交わす。
「僕もそう思う。神聖な花をお金にかえることは出来ないよ」
 シェルクは、白い花が自分たちを真実の恋人と認めてくれた事に嬉しそうだった。
「そうだよね。でも真実の恋人だなんて、2人ともすごいですよね」
 尊敬の瞳で見上げて来るジューダに、2人が頬を赤くして微笑む。
「ホモが真実の恋人だなんて、あの花枯れかかってたんじゃねえか」
 ボソリとクレイが呟き、ジューダがキッと睨みつける。
「お金欲しさにやられたクレイなんかに言われたくないね」
 グサリと胸に刺さる一言にクレイが胸を押さえる。
「でも、僕、今回のことでわかったことがあるんだ」
 苦しむクレイをよそにジューダは話し続ける。
「僕はクレイに対する好きは恋人の好きじゃないって」
 カイルとシェルクを見続けて、ジューダは自分のクレイに対する気持ちが2人のものと違うことに気づいた。
「ジューダ!!」
 クレイは痛みから一瞬で立ち直り、喜びの涙を流した。
「良かった。ジューダがホモにならないで!!」
 そのまま号泣してしまいそうな勢いに、3人が嫌そうな顔になる。
 ジューダは迷惑そうに微笑み、だがクレイの頭をなでてやった。ここまで心配かけた自分にも、少しは責任があるように感じていた。
「でもね、僕はクレイのことが好きだよ」
 偏見ばかりで平気で人を傷つけて、お金にせこいクレイでも、それでも自分の相棒はクレイしかいない。
 たとえ、この好きが恋人の好きでなくても、好きなことには代わりないから。
 大声で泣き叫ぶクレイに届いていなかったのか、クレイは何も言わなかった。それとも、そんな気持ちをとっくに知っていたのかもしれないけれど。
「あーあ、それにしても、どうやって金を稼げばいいのかな?」
 クレイを無視して、カイルがこれからの旅を思って深い溜息をはく。同じく、シェルクの表情も暗くなる。
「どうやってって?シェルクさんは回復の術が使えるんでしょう?教会に行って、お手伝いをすれば給料もらえるよ」
 世界でも回復の術を使える人は少ない。教会も回復の術が使える人を短期のバイトでも募集していた。
「えっ!?」
 しかし、世間に疎い2人は、そんなことすら知らなかった。
「それにカイルさんの剣の腕前なら仕事の依頼も来るんじゃないかな?」
「何だって!?剣で仕事が出来るのか!?」
 信じられないとばかりに目を見張る2人に、さすがのジューダも2人の先行きが不安になってきた。
「バカだ、こいつら!!」
 慌てふためく2人の様子に、さっきまで泣いていたクレイが笑い出す。
「だって、回復とか剣って人を助けるためにあるのだから、それでどうしてお金をもらえるのか…」
 戸惑うシェルクが、ジューダには旅だって間もない自分に重なって見えた。
 きっと彼らにとっては、無報酬で人を助けるのが当たり前で、回復や剣でお金がもらえるなど夢にも思っていなかったのだろう。
 だけど、世の中全ての人間が、人を助けるために自分の力を使うわけではない。中には、平気で人を傷つける人間もいる。
 まだ、真っ白なままの彼らには、現実は酷かもしれない。
「回復の術だって剣だって、自分の力だろ。それを提供するのに金を貰ってどこが悪いんだよ。相手だって、金で自分たちの平和を守れるんなら安いもんだろ」
 クレイの発言に2人が納得のいかない表情を浮かべる。
 世の中は金と割り切っているクレイの意見だが、実はそんなにせこくないことをジューダは知っている。
 金のない人からは安い金で仕事を請け、金のある人からは高い金で仕事を請ける。生活が辛い人からは無報酬で仕事を受けることも、少なくない。
 自分で言っているほど、クレイは悪人ではないと思う。だだ、良い人と思われるのがクレイは嫌いなだけだ。
「納得いかないなら、自分たちで考えるのがいいよ。ただ、生きて行くのにお金は必要だから」
 自分の意見に成長したなとジューダは思う。融通が聞かなかった昔と変わって、今では良い意味でも悪い意味でも世間になれてきたと思う。
 カイルとシェルクは、最後には小さく頷いてくれた。世間の厳しさと自分の理想の差は、自分自身が埋めて行くしかないだろう。
「それじゃあ、僕たちはここで」
 カイルとシェルクは頭を下げ、教会の方へと歩いて行った。教会でバイトをしてお金を稼ぐことにしたようだ。
「俺たちも新しい仕事を探さなきゃな」
 2人を見送り、クレイは少し淋しそうに2人とは反対方向に歩き出す。
「ねえ、クレイ」
 ジューダは2人が見えなくなった場所を見つめたまま、クレイに話しかける。
 クレイは足を止め、ジューダを振り返る。ジューダは遠く瞳をさ迷わせたままポツリと呟いた。
「僕は強くなったかな」
 ジューダの背に翼がゆらりとはためき、消え去った。
 一瞬だったけれど、その翼は確かに前見た時よりも大きくなっていた。クレイはそれを伝えようとして、だが口を閉ざした。
「行くぞ!」
 クレイは答えずに、ジューダの首に腕を回し、歩き出す。
 ジューダは半ば引きずられるように、だが自分の足で歩きはじめる。
「ねえ、クレイ」
「何だよ」
「シェルクさんたちにまた会えるといいね」
 そう言うと、クレイは露骨に嫌そうな顔になる。
 だが、ジューダはいつか2人に会いたいと思う。
 その時、2人はどうなっているのだろうか。どんな風に変化しているのだろう。
 そして、自分もまた変わっているのだろうか。変わり続けることに恐怖はない。
 どんな時も、逃げ出さずに一歩一歩足を踏み出すだけだ。
 自分にはクレイがいる。そして背中には翼があるから。
 今は、まだ前を向いて歩き続けるだけだ。



(終)

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