「夢の翼」と「誓いの未来へ」コラボ作品4





 剣の応酬は、ほぼ互角だった。互いに必殺の一撃を出せないままでいる。
「カイル…」
 心配そうに見守るシェルクにジューダは近寄り、肩を叩く。
「大丈夫、すぐに終わるよ」
「でも…」
「2人とも子供じゃないんだから、手加減くらいするって」
 クレイの子供のような罵倒を思い出すとシェルクはますます不安になるが、ジューダの慣れた態度を見ていると少し気持ちが軽くなってきた。
「そうですよね」
 自分に言い聞かせるようにシェルクは頷く。いざとなれば、自分がカイルを助けに行こうとする体勢はとったままでいるが。
「うわあぁ!」
 悲鳴が聞こえ、2人は戦いに目を戻す。
 そこでは、クレイが崖まで追い込まれていた。剣は重なり合ったまま、力勝負になっている。
 もし、カイルが勝てば、クレイは崖底までまっさかさまだ。
「クレイ!」
 この展開には、気楽に観戦していたジューダも慌て出す。
 2人に駆け寄るが、クレイの剣がどんどんカイルに押されて行く。あと一押しで落ちるというところで、カイルがフッと力を抜く。
「俺の勝ちだ」
 眼前でニヤリと笑われ、クレイは悔しそうに舌を鳴らす。
「たまたまだよ」
 負け惜しみを言い、クレイもニヤリとカイルに笑い返す。カイルは苦笑して、剣を下ろす。
 カイルが剣を下ろして、ジューダがほっとしたのも束の間、急な強風でクレイの体がグラリと傾く。
「っ!!」
 息を呑んだ瞬間、クレイが崖底へと消えて行く。
「クレイ!!」
 ジューダが瞬時に飛び出すが、間に合うわけがない。
「くっ!!」
 クレイの体が崖底へ消える瞬間、カイルの手がかろうじてクレイの右手を掴む。
 続いて追いついたジューダがクレイの左手を掴む。
「助かった〜」
 宙ぶらりんになりながら、クレイが涙声を出す。
 下を見ると、遠く下で木が生い茂っている。木がクッションになっても、この高さでは到底助かりそうにない。
 もし落ちていたらとぞっとして、クレイは反射的に下から目を逸らした。
「はやく上げてくれ〜!!」
 すがるようなクレイの目に、2人は同時に頷く。
 タイミングを合わせ、クレイの体を持ち上げようとして、
「ちょっと待った!」
 クレイが制止する。
「クレイ?」
 クレイは自分の腰の高さに咲いている花を見ていた。左側に咲いている花は、岩の間から一輪だけ突き出ている。
 変哲もない白い花は、咲く場所が異質なだけで特別な花に見えた。
「これって…」
 カイルが何かに気づいたのか、花を凝視している。
「まさか…」
 クレイもカイルと同じく勘付いているのか、花から視線を離そうとしない。
「幸せの花!?」
 2人の声が重なり合う。
「これが!?」
 ジューダが驚いた声を出す。
 しかし、カイルとクレイは相手も幸せの花を狙っていることを知り、睨みあう。
「おまえも狙っていたとはな」
「ああ…」
 再び戦いが始まりそうな雰囲気だが、クレイの格好はかなり間抜けなものだった。
 睨んだ相手に助けてもらっている状況では、何を言っても意味をなさない。
「とにかくクレイを助けないと」
 クレイの生死が関わっている最中で、呑気に睨みあう2人に呆れながら、ジューダが口を出す。
「そうだな」
 カイルも思い出し、今度こそタイミングを合わせ、クレイを持ち上げようとするが、
「待てっ!!」
 またもや、クレイに止められてしまう。
 そして、クレイは何かを訴えるかのように、ジッとジューダの瞳に話しかけてくる。
『この花を取って、投げるから受け取ってくれ!』
 口に出さなくても、長い付き合いのジューダなら通じるはずだ。クレイは信じて、ジューダを見つめる。
 熱意のこもった目で見つめられ、ジューダはニッコリと笑顔を返す。
 その笑みで、心が通じ合ったとクレイは確信した。
「よしっ!手を離せ、ジューダ」
 叫ぶと、タイミング良くジューダが手を離す。
 クレイは素早く花を摘み、ジューダの元へ投げる。
「…」
 が、その花はジューダの頭上を通り過ぎていった。
 思いもよらない展開にみんなの目が点になる。
「どうしたの?」
 クレイたちから少し離れたところにいたシェルクが、突然花が降ってきて驚き、尋ねる声で3人が我にかえる。
「びっくりした。いきなりクレイが花を投げるんだもん」
 ジューダが胸を押さえ、びっくりしている様を見て、クレイの怒りが頂点に達する。
「…ジューダ」
 しかし、ジューダを責める言葉は出てこない。どちらかと言うと、ジューダを信じた自分にクレイは怒っていた。
 こいつと心が通じたと思った俺がバカだった!
 痛切に心に刻み込み、クレイは二度とジューダを信じるようなことはしないと決めた。
「何をやっているんだか…」
 1人で勝手に落ち込んでいるクレイを見て溜息をつき、カイルは一気にクレイを引き上げる。
 クレイは力なく、ズルズルと地面に引き上げられる。顔が地面にこすれても、顔を上げる気力さえ湧かなかった。
 そんな3人をよそに、シェルクは花に近づいていく。
 地面に放り出された花は、変哲もないただの白い花だった。しかし、時がたつにつれ、それはほのかな燐光を放ちはじめていた。
 シェルクは、光っていることでそれが自分たちの探していた幸せの花だと気づいた。
 これを街まで持って行けばお金が手に入る。
 シェルクは、花に手を伸ばした。
「っ!」
 花に触れる直前、光が強まりシェルクの手が弾かれる。ピリピリと痛む手を押さえ、シェルクは目を大きく見開いた。
 花の光から、白い蝶が浮かび上がっていた。白い蝶は、花を守るように旋回しはじめる。
 シェルクは敵意を感じ、咄嗟に守りの術を唱えた。シェルクの前に透明な壁が立ちはだかったのと同時に、白い蝶が己の光を強めながら体当たりをしてくる。
「くっ!!!」
 明らかに蝶の力のほうがシェルクを上回っていた。シェルクは術の壁ごと真後ろに吹っ飛ばされる。
「シェルク!!」
 クレイを助けていたカイルが、シェルクの異変に気づき叫ぶ。シェルクは倒れたままぐったりとしている。術の壁も蝶の体当たりで消えてしまっていた。
 蝶の体が再び輝き出すのを見て、カイルは無防備なままのシェルクを庇おうと両者の間に走る。
「カイルさん!」
 シェルクを攻撃した時の蝶の力の強さに危機を抱いたジューダも、伸びたままでいるクレイを放って駆け出す。
 あの光を真正面から受け止めようなど無謀すぎる。だが、庇わなければ後ろに倒れているシェルクがどうなってしまうか。
 ジューダはカイルの強い気持ちを感じた。大切なのだ。自分の身よりもシェルクのことが。
 カイルは蝶の攻撃に間に合い、シェルクを守るように両腕を広げた。
「…は、花…」
 放心状態だったクレイの指がピクリと動く。
 白い光が膨れ上がり、カイルへと解き放たれる瞬間、
「俺の花だ!!」
 クレイが起き上がり、一心不乱に花目掛けて飛び掛った。その様子はまさに金の亡者だった。
「クレイ!」
 ジューダは、カイルとクレイのどちらに注目すればよいのかわからずに、目をキョロキョロさせる。
 その間にも解き放たれた白い光は、カイルへ襲いかかり…
「ぎゃあ!!!」
 突然進路を変えてクレイに突撃した。
 背後からまともに光をくらったクレイは、スローモーションのごとく宙を飛び、顔面から地面に激突した。



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