「夢の翼」と「誓いの未来へ」コラボ作品3





 街の中心を走るメインストリートから外れ、座り込んでいる若者が2人。
 露天や出店の活気とは打って変わって、どんよりとした雰囲気だ。
「…」
 お互い顔を合わせ、真剣な表情で黙り込んでいる。
「…ごめん」
 黙り込んでいた片方のシェルクが沈痛な面持ちで頭を下げる。
「謝るなよ。おまえのせいじゃないさ」
「でも、僕…」
 カイルに優しい声をかけられ、シェルクは心を痛める。
「僕がボーとしていたから」
 自分がしてしまった大きな失敗に唇を噛む。
 下げられた頭は上がることなく、カイルはシェルクの頭を見ながら、これからのことを考えていた。
 お金がない。
 そう、シェルクに預けていた財布がなくなってしまったのだ。財布には所持金全部を入れておいたため、今は無一文である。
 おそらく、メインストリートの喧騒に紛れスラれてしまったのだろう。
 噂には聞いていたが、本当にスリがいるとは2人は思ってもいなかった。
「スリがいるって話を聞いていたのに」
 涙交じりのシェルクの声に、カイルが意識を戻す。
 今は、これからのことを考えるより、シェルクを慰めるほうが先だった。
「気にするなよ、シェルク。金なんて、ないなら稼げばいいんだからさ」
 優しく頭をなでられ、シェルクはやっと顔を上げた。
「ごめん、カイル。僕一生懸命お金を稼ぐよ」
 目じりにたまった涙を拭い、シェルクが決意を固める。だが、それからシェルクは少し考え口を開いた。
「お金ってどうやって稼ぐの?」
「…」
 シェルクの質問にカイルの頭が真っ白になる。
「…さあ?どうやってだろうな…」
「…」
 2人とも黙り込んでしまった。
 2人とも閉鎖された村育ちなので、お金をどうやって稼げばいいのか検討もつかない。
「そう言えば、俺って金を稼いだことないや」
 今知った新事実にカイルが打たれたようにうなだれる。
「僕たちの村ってお金の価値がないからね。物々交換が基本だし」
 シェルクたちの村では、お金で取引することが滅多になかった。2人とも、あまりお金を見たことがなかったりする。
「金がなくても近所のおばさんが野菜とかくれていたから、生活には困らなかったしな」
 思えば、ずいぶんと恵まれた環境だったのだとカイルは思いなおした。暮らしていれば、それが普通だが村を出れば考えられない話だ。
「どうしよう、カイル。お金の稼ぎ方も僕らわからないよ」
 シェルクが困ったように言い、2人ともうなりあってしまう。
 稼ぐ以前の問題に突き当たり、途方に暮れていると、
「?」
 カイルの目が壁の張り紙を見つけた。
『2人を結ぶ幸せの花を摘んでくれた方に賞金を差し上げます』
「これだ!」
 カイルは立ち上がり、張り紙に顔を寄せる。
 突然のカイルの声にびっくりしたシェルクも、不思議そうに張り紙を見る。
「この花を摘めば、お金がもらえるの?」
「ああ、たぶんな」
 カイルは壁から丁寧に張り紙を引き剥がす。
「花を摘むだけでお金がもらえるなんて、お金を稼ぐのって簡単なんだね」
 肩透かしをされたようなシェルクの表情に、カイルが苦笑する。
「まあ、そうだな」
 この高い賞金からして、この花が危険なところにあるのか、この花事態が危険なのかどっちからだろうとカイルはふんでいた。
 しかし、剣でどうにかなる相手なら問題はないだろう。術が使えるシェルクもいることだし。
「よしっ、行くか!」
「うんっ!!」
 気合を入れるカイルの隣で、シェルクは初めて自分の力でお金を稼ぐことにワクワクしていた。
 それはまるで子供のお手伝いでお駄賃をもらうような感覚だった。

 幸せの花があるという場所に着くと、そこには先客がいた。
「どうして、おまえらが…」
 悪夢の元凶が現れ、クレイが体中から悪意を振りまく。
「あれ、カイルさんとシェルクさんじゃないですか!?」
 片割れのジューダはクレイの様子など気にすることなく、友好的に2人に歩み寄ろうとする。
 カイルたちも2人に気づき、笑顔で迎えてくれるが、
「ちょっと待て!!」
 クレイはジューダの首根っこを掴む。
「あいつらに近づくな。変態がうつる」
 キッパリとクレイが言い切ると、カイルの視線が鋭くなる。
 シェルクは、クレイの言葉にショックを受け、落ち込んでしまっている。
 そんなシェルクを庇うように、カイルがシェルクの前に立つ。
「昨夜といい、今日といい、その言い方はひどいのではないですか?クレイさん」
 口調こそ丁寧だが、まるでケンカをうっているような言い様だ。それに気づき、クレイの表情が剣呑になる。
「変態を変態と言って何が悪いんだよ!」
「クレイ!!」
 胸を張り叫ぶクレイを止めようと、ジューダが声を上げるが、クレイは聞いてくれない。
 思いつく限りの罵倒を続けざまにカイルたちにぶつけ始める。
 カイルの背中の後ろで聞いていたシェルクの体は震えていた。悔しくて情けなかった。
 2人の思いは真実で、恥ずかしいことなど何もないのに、変態と言われて言い返せない自分がいた。男同士など、やはり世間では許されないのだろうか。
 無意識にカイルの洋服を握り締め、カイルはシェルクが苦しんでいることに気づく。
 シェルクを守れない自分を不甲斐なく思い、カイルは剣を抜き、クレイを指す。
「黙れ!!剣で勝負だ!」
 カイルが宣戦布告をすると、クレイが面白そうに眉を上げ、素早く剣を抜く。
「やってやろうじゃねえか!!」
 剣呑な表情から、一気に目が輝き出したクレイにジューダが溜息をつく。
「結局、クレイは戦いたいだけなんだね」
 強い者に出会うと、すぐに相手になりたがるのは、クレイの悪い癖だった。自分がどこまで強いのか試してみたくなるのだろう。
「何言っているんだよ、ジューダ。誘ってきたのは向こうだぜ」
「ケンカ売ったのはクレイじゃないか」
 口ではブツブツ言っておきながら、ジューダはクレイを止めようとしない。
 止めても無駄だとわかっている。それに、クレイは強い者を認める傾向にあるから、もしカイルがクレイに勝てば、クレイはカイルに友好的になるかもしれない。
 それに、これはあくまでもケンカ。クレイが本気で相手を傷つけることもないとジューダは知っている。
「行くぞ!!」
 喜々としてクレイはカイルに襲いかかる。
 カイルはシェルクに危害が加わらないところまで移動させ、クレイを迎え撃つ。



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