「夢の翼」と「誓いの未来へ」コラボ作品2





 4人は街に着くなり、酒場へ繰り出した。
 仕事を果たしたことと、森から無事抜け出したことでテンションがあがったせいかもしれない。
 街までの帰路で、意気投合した4人はその場で別れることなく、酒を酌み交わした。
「あの熊を一撃でしとめるなんてすごいなあ」
 カイルの熊を倒した活躍を聞き、ジューダが素直に感嘆する。酔って感動しやすくなったのかと思ったが、ジューダは少ししか飲んでいなかった。代わりにクレイの酒が進み、かなり酔っ払っている。
「そんな、シェルクの援護があったから」
 照れたように頬を赤く染め、カイルはまんざらでもない様子で微笑む。
「そんなことないよ。カイル、格好よかったよ」
 シェルクにニッコリと微笑まれ、カイルの相好が崩れる。
「シェルクの術のおかげだよ」
「カイルのおかげだよ」
 酔っているせいもあるのか、2人はジューダたちを無視して、いちゃつきはじめる。
 クレイも酔っていたので、2人の様子を不審に思わなかった。ジューダは微笑ましそうに2人を見つめている。
「そっか、シェルクは術を使えるのか。それじゃあ、回復の術も使えるのか?」
 日頃、回復の術者がいないことに不満を持っているクレイが、羨ましそうにシェルクを見る。
「うん、使えるよ」
「いいなあ。おまえ、俺たちの仲間にならないか?」
 トロンとした目つきでクレイが誘うと、シェルクが申し分けなさそうな表情になる。
「ごめん。僕たち旅に出ているわけじゃないんだ」
「えっ?そうなの?」
 2人の実力からして、すっかり冒険者たちだと思いこんでいたジューダは目を丸くする。
「ああ、俺たちは落ち着ける場所を探しているんだ」
「そうなんだ…」
 どうしてと聞きそうになってジューダは口をつぐんだ。
 出会って間もない自分が、そこまで聞き出していいのか迷った。クレイは、その辺をわきまえているのか、興味すら示さないでいる。
「そっか。残念だな。回復できる奴がいると楽になるんだけどなあ」
 残念がってはいるが、クレイはそれ以上無理強いはしなかった。
「それにしても2人は仲が良いんだね。一緒に住む場所を探しに行くだなんて」
 結局ジューダもそのことについて聞く事もなく、話を変えた。
「え?いや、それは…」
 酔って赤い顔をさらに赤くして、2人は見つめあう。
 2人のおかしな様子にジューダが首を傾げると、シェルクはカイルに甘えたように腕にしがみつき、
「僕たち結婚を約束しているんです」
 嬉しそうに打ち明ける。
「ブー!!」
 ジューダがポカンと口を開けると、隣にいたクレイが飲んでいた酒を吹き出した。
「うわっ!汚いよ、クレイ」
 かかった酒をおしぼりで吹きながら抗議するが、クレイは聞いていない。
「け、結婚って、おまえらがか!?」
 クレイの慌てぶりを見て、カイルは顔色を変え、シェルクの口を閉ざそうとするが、
「そうです」
 遅かった。
「…」
 カイルはクレイを直視出来ずに頭を抱える。一気に酔いが冷めてしまった。
 クレイは震えながら、信じられないとばかりに2人を見ている。冷水を浴びせられたように、頭が痛い。
「…ホモ」
 指を指し、ポツリと呟く。
「おまえら、ホモかー!!」
 ガタンと椅子から立ち上がり、クレイが叫ぶ。周りの人が驚いて4人を見る。
「クレイさん?」
 豹変したクレイの態度にシェルクが目を見開く。
「話しかけてくるな。ホモがうつる!!」
 嫌悪感丸出しのクレイにシェルクが傷ついた表情になる。
 さすがにカイルも頭にきて、口を開きかけたその瞬間、
「ホモって何?」
 呑気なジューダの声が割り込んできた。
「ホモって何?」
 固まってしまった3人に聞きなおすと、クレイが疲れたように椅子に座り込む。
「あのなあ、ジューダ。ホモっていうのは男が男を好きになるってことで、つまり変態だ」
「変態!?ひどい…」
 キッパリと話すクレイにシェルクが涙をにじませる。
「僕はただ、誰よりもカイルを好きなだけなのに」
 クレイに言わせてみれば、それだけで立派な変態である。だが、ジューダにはどうしても、そう思えない。
「誰よりも好きなの?」
 ジューダが聞き返すと、シェルクはコクリと頷く。今にも泣き出してしまいそうなシェルクをカイルが優しく頭を抱き寄せる。
「…そうなんだ」
 2人を見て、2人とも互いが好きで大切にしているかがわかった。こんな関係をジューダは素敵だと思った。そして、
「それなら僕もホモだ」
 ジューダの一言に3人は凍りついた。
「はい?」
 ジューダのわけのわからない一言になれていたクレイが先に立ち直る。
「だって僕クレイが1番好きだよ」
 しかし、そのクレイも邪気のないジューダの微笑と告白に、魂が抜けるほど放心してしまった。
「そうなの?」
「うん!」
 ジューダが頷くと、シェルクは嬉しそうに笑った。
 カイルはクレイを気の毒そうな目で見ている。
 しばらく、髪の毛が真っ白になり、向こうの世界に旅立っていたクレイだが、のっそりと立ち上がり、
「おまえら、二度と俺に近寄るんじゃねえー!!!」
 般若の顔で叫び、ジューダを掴み逃げ去ってしまった。
「…」
 残された2人は、呆然と見送るしかなかった。

 その後、宿屋に逃げ帰ったクレイは、夜中悪夢にうなされ、なかなか寝付けなかった。
 カイルとシェルクがいちゃついたり、ジューダが迫ってきたりと明らかにカイルたちのせいだとわかる悪夢。
「あんな奴ら、森に放っておけば良かった」
 30分単位で目覚めながら、クレイは心底後悔していた。
 そして、朝。
「クレイ、目の下真っ黒だよ」
 クレイの憔悴した顔を見て、ジューダがびっくりする。
「ああ…」
 悪夢のせいで、ついに眠れなかった。しまいには、目を閉じるだけでカイルたちの姿が浮かんでくるようになっていた。
「大丈夫?」
 視界の定まらないクレイの瞳に、ジューダが眉を寄せる。ジューダには、どうしてクレイがこうなってしまったのかわからない。
「ははは」
 虚ろな笑みを浮かべながら、クレイはベッドを出てフラフラと歩き出す。
 とにかく、カイルたちのいるこの村からはやく出て行きたかった。
「どこに行くの、クレイ!?」
 不気味な笑い声を残し、去って行くクレイの後をジューダが慌てて追いかける。
 しかし、クレイは答えることなく、まるで操られているかのように宿屋を出て行く。
「どこに行くんだよっ!?」
 言っても聞いてくれないクレイの腕を乱暴に掴み、ジューダが問い詰めると、クレイは倒れこむようにジューダと向き合い、
「どこでもいい。この村から出たいんだ!!」
 血走った目をカッと見開く。
「無理だよ」
 しかし、ジューダはあっさりと笑顔で答える。
「っ!!」
 凍りつくクレイに、ジューダが笑顔のまま話す。
「だって、お金がないから」
 どうにもならない問題を突き付けられ、クレイの頭に衝撃が走る。
「…そんな馬鹿な…昨日の金は?」
 昨日、熊を倒した報酬が出るはずだ。その金を使えば、街を出られるはず。
「宿屋の滞納金で使い果たしたよ」
 またもや、あっさりと答えられ、クレイは絶句した。
 この世の終わりのような顔をしているクレイにジューダが気遣うような表情を見せる。
 そこまで落とし込んだのは、自分なのに。
「大丈夫だよ、クレイ。お金なんて稼げばいいんだ。すぐに街を出るくらいのお金貯まるよ」
 燃え尽きたように動かないクレイを励ますと、クレイが一条の光を見つけたかのように瞳を輝かせる。
「稼ぐ?…そうだ、金がないのなら、稼げばいいんだ!!」
 両手を広げ喜ぶクレイを、大げさだと思いながらジューダも両手を広げる。
「そうだよ、クレイ。お金を稼ごう」
 ガシッと2人は手を握り合う。
 それは新たな友情が芽生えた瞬間でもあった。
「さて、仕事を探しに行くか」
 すっかり立ち直り、クレイが一歩を踏み出す。
「待って、クレイ」
 しかしすぐにジューダに引き止められ、不満そうに振り返る。
「この張り紙を見てよ」
 ジューダは壁に貼ってある張り紙を見ていた。
 クレイもそれを見ると、そこには、
『2人を結ぶ幸せの花を摘んでくれた方に賞金を差し上げます』
 と書かれてあった。
「2人を結ぶ幸せの花?」
 クレイが胡散臭そうな目を向ける。
 しかし、ジューダの方は気にせずに、賞金と花のある場所を見ている。
 クレイも続けて賞金を見て、目を細めた。
「賞金が高いな」
 花のある場所が丁寧に書かれてある。場所さえわかれば、普通の花なら誰でも摘みにいけるだろう。
 しかし、この花には賞金がかかっていて、しかも値が高い。
「危険な場所にあるのかな?」
「だろうな」
 それならば、考えられるのは一つ。その花か、花のある場所が危険なだけだ。
 クレイは、バカにしたように鼻をならし、壁に貼り付けられてあった紙をはがした。
「行くぞ、ジューダ!」
 紙を握りしめたまま、クレイは街の外、花のある場所へと歩いて行く。
「ああ!」
 花を探すことに異存のないジューダは、素直にクレイの後をついて行く。
「絶対、あいつらのいる街から出てってやる!!」
 グシャリと紙を握りつぶし、クレイは渾身の力を込めて叫ぶ。
 もう、あの悪夢に苦しむのは、二度と御免だった。



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