誓いの未来へ6





第2章

 朝靄の中、1人の男が静かな村の中を走っていた。
「大変だ、大変だ!」
 小声で何度も呟きながら、男、キールは村長の家へ向かっていた。
「ちくしょう。カイルの奴、どこに行ったんだ!」
 村長の家へ向かう前にカイルの家に寄ったのだが、そこにカイルはいなかった。
 こんな大変な時に、どこにうろついているのか。探す暇もおしく、キールはカイルを置いて村長の家、シェルクの元へ向かおうとしていた。
 朝早いためか、村の中を歩いている者は誰もいない。
 しかし、キールには村の人々が外に出ない理由が、朝だからではないことを知っていた。
 それは、キールが爆睡していた夜明け頃、突然、現守り人のサルフィスがキールの家に怒鳴り込んできた。
 慌てて起きたキールは愕然とした。
 秘石の場所が確認出来なかったのだ。
 村はずれの小屋で厳重に守られているはずの秘石の存在が感じられなくなってしまったのだ。
「秘石が盗まれたっ!?」
 瞬時に悟ったキールはベッドから跳び起きる。
 すぐざに戦いの準備を整えようとしたキールだったが、サルフィスに止められた。
「キールとカイルは村で待機だ」
 サルフィスはキールに待機するようにと伝えるためにキールの家を訪れたのだ。
「どうしてですか!?俺だって戦えます!!」
 キールにだって守り人としての使命がある。それが、たとえ候補だとしてもだ。
「君たちが来たら、足手まといになる」
 しかし、サルフィスの一言にそれは切り捨てられる。
「っ!?」
 キールはショックを受けながらも反論出来なかった。その通りだった。
「秘石の方は守り人と村長で探すから大丈夫」
 サルフィスは安心させるように微笑み、家を出て行く。
「そうそう、カイルにもこのことを知らせてくれるかな?」
「はい!気をつけて戦って下さい!!」
 姿勢をただし、返事をすると、サルフィスは頷き、去っていった。
 その後、キールはカイルの家へ行ったが、早朝だというのにカイルは不在だった。
 そこでキールはカイルに伝言を頼むため、シェルクの元へ向かった。
 シェルクに頼み、キールは単独で秘石を探そうとしていた。
 サルフィスには止められたが、このままじっとしてなんかいられない。
 たとえ、弱くても候補だとしても、自分は守り人だ。こんな時に動かずにいるなど無理に決まっている。
「それに俺が活躍したら、アリシアの好感度upだもんなっ!!」
 邪まな考えを抱きつつ、キールは村長の家の扉を叩いた。

 何やら家の中が騒がしかったが、カイルとシェルクはそれに気づくことなく眠っていた。
 シェルクが目を覚ましたのは、ちょうどキールが守り人サルフィスに起こされた時だった。
「うぅぅ」
 自分の体を抱きしめているカイルの腕をどかす。これはカイルの癖で、起きるとシェルクの体は必ずカイルに拘束されているのだ。
 それは、カイルが淋しがり屋なのか、それとも心配性なのか、この癖が始まったのは、シェルクが秘石を初めて見た時からのこと。カイルがシェルクを守ると誓った日からだった。
 シェルク自身、自分がカイルに守られているようで嬉しい。だが、カイルは自分のこの癖を知らない。それは、シェルクがカイルより、いつも早くに起きているからだった。
「?…何だ?」
 上半身を起こすと、グラリと頭が傾く。軽い眩暈の後に不快な感覚が襲ってくる。
「風邪?違う…これは…」
 口元に手を当て、じっと考え込む。妙に胸騒ぎがする。まるで秘石に触れた時のような感覚。
 ドンドンドンッ!!!
 乱暴に窓ガラスが叩かれる。
 だるそうに、窓ガラスに視線を向けるが、カーテンが邪魔して何も見えない。
 ドンドンドンッ!!!
 音は続く。手加減なしの力に窓ガラスが割れないのが不思議なほどだ。
 シェルクはベッドから抜け、窓ガラスの前に立つ。一気にカーテンを開けようとして、手が止まる。
「…!!」
 突然、思考がクリアになる。今までの不快の意味がわかったのだ。
「秘石が盗まれた…」
 いつも感じていた秘石の存在がなくなっていた。それは秘石が盗まれたことを意味している。
 盗んだのは魔王に操られた村人か、とにかく魔王は予言どおり復活したのだ。
 シェルクの体が震えはじまる。
 体を支えられなくなり、カーテンにしがみつく。
 音は弱まりもせずに続いている。それが怖くてシェルクの体は更に震えた。
 バカな…カーテンの外に何がいるって言うんだ!?
 考えを振り払い、シェルクはカーテンを開けようとする。だが…
「…あぁっ」
 不意に幻像が蘇る。秘石に触れた時に見た、あの忌まわしき映像が頭の中に回り始めたのだ。
『ハヤク、コイ…』
 幻像の終わり間際、この世のものとは思えぬ闇をまとった何かがシェルクに囁いた。
『オマエハ、ワレノモノ…』
 地獄へと引きずられそうな声が響く。
「うぅぅぅ…」
 耐えられず、カーテンに指が食い込む。そのまま倒れそうになり、シェルクはフッと自分の体が軽くなる感じがした。
「大丈夫か!!シェルク!!」
 目を覚ましたカイルが今にも崩れ落ちそうなシェルクの体を支えてくれたのだ。
「あぁ、カイル」
 シェルクは救いを見つけたようにカイルにしがみつく。
 守られるようにカイルにきつく抱きしめられると、あの声は嘘のように引いていった。
「大丈夫だ、シェルク」
 カイルは怖がるシェルクをなだめ、窓ガラスに視線を向ける。
「朝早くから、うるさいんだよっっ〜!!!」
 叫びと共に一気にカーテンを引くと、
「…あれ?キール?」
 目を点にしたキールと目が合った。



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