誓いの未来へ3





 無事に儀式が済み、カイルとキールが小屋から出ると、そこにはシェルクが2人を待っていた。
「どうだった?」
 シェルクが儀式の様子を聞くと、キールが意地悪な笑みを浮かべる。
「こいつ秘石にびびって固まってるんだぜ。俺は守り人のパートナーとして恥ずかしかったよ」
「っ!何を言っているんだよ!あれはびびったわけじゃない!」
「またま〜た。シェルクの前だからって見栄をはらなくていいんだぞ、カイル」
「あのなっ!あれは、びびってたわけじゃなくて…」
 秘石を手にして固まっていた本当の理由を言おうとして、カイルはシェルクの視線を感じて押し黙った。
 まさか、本人の前で話すことは出来ない。内容が内容だ。
『僕を殺して』
 いや、こんなことキールにだって話すことは出来ないだろう。シェルクが秘石を持ってカイルに殺されることを望んだ幻像を見たのだということなど。
「どうしたの?カイル」
 眉をひそめ口を閉ざしてしまったカイルを心配そうにシェルクが覗き込んでくる。
「情けない事をシェルクにばらされてカイルは悔しがってるんだよ」
 大きな口を開けて愉快そうに笑うキールに反論することが出来ずにいたカイルだが、ふと思いついて反撃に出る。
「そう言えば、お前秘石の前に行くときに手と足が一緒に出てたよな?」
「くっ!秘石の前で3分くらい固まっていたお前よりはましだと思うぜ」
 しかしキールも負けずに言い返す。カイルはキールに言われて、自分が3分も固まっていたことに驚いた。
「俺、そんなに固まってた…?」
「ああ、俺も村長もひやひやしたよ」
 キールは呆れたように肩をすくめる。
「しかし、俺の一番のライバルと思っていた男がこんなに臆病者だとはなあ…」
「そこまで言うなら俺にも考えがあるぞ…」
 キールのあまりの言い様にカイルの目がスッと細められる。
「うっ!なっ、何だよ」
「…アリシアに言うぞ」
「げっ!!」
 アリシアの名を出すと、キールの顔が一瞬で青くなる。
「出たね、キールの最大の弱点が」
 2人のやり取りを眺めていたシェルクが、キールのうろたえている態度を見てクスリと笑う。
 カイルとキールの口喧嘩は頻繁にあるが、そのどれもがカイルの勝利で終わる。
 それはキールに弱点があるからだ。
 アリシアと言う少女、それがキールの弱点だった。
 アリシアとはシェルクの妹で、カイルたちより2つ年下の可愛らしい少女だ。優しく可憐な少女で村一番の人気者だ。
 親である村長は、次期守り人候補のカイルかキールを婿にもらいたいと考えているらしい。
 それは、アリシアにぞっこんなキールなこと。自分がアリシアと結婚するのだと日々カイルに威嚇している。
「やめてくれ!アリシアには俺は頼れるナイト様と思われていたいんだ。だから、そのことはどうか言わないでくれ!!」
 キールはカイルの足にすがりつき、ウルウルと目をにじませる。
「大丈夫。カイルはそんなこと言わないよ」
 カイルとキールのやり取りに決着がついたのを見て、シェルクが口を出す。
「本当か?カイル?」
「ああ、言わないよ」
「やっぱり、お前は真の友だ!!」
 感動してキールがカイルの足に抱きつく。
「バカッ!離せ!!」
 キールに抱きつかれても嬉しくともなんともない。カイルは足を蹴り上げてキールから逃れる。
「よしっ!そうと決まれば俺は守り人の儀式が終わったことをアリシアに報告に行くぜ!!」
 素早く立ち上がり、キールは走り出す。
「お前は来るなよ!」
 ビシッとカイルを指差し、念を押すとキールは去って行った。
「アリシアもキールにあんなに思われて幸せだね」
 キールの後姿を見て、シェルクは嬉しそうに微笑む。
「ああ、もう俺の入る隙間なんてないよ」
 カイルが苦笑すると、シェルクは少し意外そうな表情でカイルを見上げる。
「カイルはアリシアのことを好きじゃないの?」
「えっ!?…好きだけど、妹みたいに思っているし。結婚する気はないな」
「…ふうん」
 カイルの答えにシェルクは気のない返事をする。実際にカイルがアリシアにどんな感情を抱いているのか、シェルクにはわからなかった。キールに遠慮しているように見えることもないのだが…
「ねえ、カイル。今日は僕の家に泊まっていきなよ」
 シェルクはそれ以上アリシアのことを聞くこともなく、儀式が終わるまでカイルを待っていた用件を話し始める。
「守り人の儀式が終わったからって父上がカイルとキールの為にご馳走を用意しているんだ」
「ご馳走か…」
 シェルクの母とアリシアの料理の上手さはカイルも知っていた。
 子供の頃、カイルは両親と死に別れてから、しばらくシェルクの家でお世話になっていた。最近になって1人暮しを始めたのだが、どうも自分には料理の才がないらしく、2人の料理が恋しくなっていたところだった。
「でも、村長の家に軽々しく泊まっていいのかな?」
 カイルが村長の家を出たのは、自分が本当の家族ではないことと、ただの村人である自分が村長の家に住める身分ではないと思ったからだった。
 父は守り人だったが、それは昔のことだ。自分が村長にそこまで可愛がってもらう理由がないような気がした。
 それに今の自分はシェルクの隣りにいるのにもふさわしくない。
 だからこそ、今度村長の家に行くときは、守り人なった時と思っていた。
「でも今日はカイルが守り人になっためでたい日だし」
「まだ候補だよ」
 シェルクは、カイルが1人暮らしを始めたのがショックであり、悲しかった。
 今まで兄弟のように育ってきたのが裏切られた気分でもある。カイルがどうしてこんなに自分たちと距離を置こうとするのかシェルクにはわからない。
「でもご馳走だけでも食べて行ってよ。キールも来るんだからさ」
 必死に頼み込むシェルクに断るのも悪い気がして、カイルは料理をご馳走させてもらうことだけは甘えることにした。
「わかった、行くよ」
「本当に!?」
 カイルが頷くとシェルクの顔に笑顔が広がる。
「良かった!さあ、気が変わらないうちに行こう!」
 シェルクが急かすようにカイルの腕を引っ張る。
「おいおい」
 カイルは苦笑しながら、シェルクに引っ張られて行った。



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