誓いの未来へ14
村長に命を受け、シェルクを救出に向かうメンバーが決まった。
カイル、キール、サルフィスの3人である。現守り人であるアイシャは、傷が完治していないため、待機となった。
「私もシェルクを救いたいが、村長である立場上、この村を離れるわけにはいかない」
村長がシェルクを思い、辛そうに目を伏せたのがカイルには印象的だった。
村長の思いに答えるためにも、今度こそシェルクを助けなければと胸に強い思いをカイルは抱いた。
そして、洞窟へ向かう前日、洞窟内であった出来事を詳しく知りたいとサルフィスが言ってきた。
カイルの家に集まり、2人でサルフィスに事細かに洞窟であった出来事を話していく。
5階までの道のりのこと。
魔王に操られたシェルクに傷を負わされたこと。
敵である赤い瞳の男に命を救ってもらったこと。そして謎の細剣のこと。
「なんでカイルが見たこともない細剣を握っているのか、わからなかったけど、その時は、とにかく助かることに必死だったからな。深く考えないで、細剣ごとカイルを背負って洞窟を脱出したんだ」
シェルクを奪い、逃げ出す赤い瞳の男を追って消えたカイルを探して、キールは小部屋に行きついた。
そこには、細剣を握り締め、倒れているカイルがいた。
死んではいなかったものの、重症だ。慌ててキールはカイルを背負って村に戻ったのである。
「細剣を持った覚えがないんだけどなあ?」
どうもカイルは腑に落ちない。あの時、細剣に近づく力もなく、意識を失ったと思ったのだが。
「無意識のうちだったんじゃないか?」
たいして気に止めていないキールに軽く言われ、カイルは納得がいかないままに頷く。
別に細剣に、そんなに気を捕らわれなくてもいいかなと思う。今は、それよりも重要なことがあるのだから。
カイルは村長に預けた細剣を頭の隅に追い遣った。
「それよりも問題は、あの赤い瞳の男だね」
惨敗した時のことを思い出し、サルフィスが表情をしかめる。
赤い波動のすさまじい威力。2度と戦いたくない相手だ。
「はっきり言って、勝てる気がしないな」
苦笑いを浮かべるサルフィスに、カイルとキールの表情が重くなる。
シェルクの赤い波動を受け、2人は重症を負った。しかし、あの男はその波動を平然と受け止めたのだ。
最初の戦いでは、男の剣一振りで2人は気を失った。レベルの違いを、痛感する。
「…」
黙りこんでしまった2人を見て、サルフィスは自分が余計なことを言ってしまったと後悔した。
どうも自分は、いつも一言多いみたいだ。
「3人で戦えば、どうにかなるよ。カイルとキールには、守り人の剣があるしね。前の戦いで剣も成長したのではないかな」
サルフィスは慌ててフォローに回る。
「そうですよね!!」
サルフィスが本心で言っているのではないと気づきながらも、キールは、不安を吹き飛ばすように笑った。
「サルフィス様も一緒に戦ってくれるんだ。心強いよな!カイル!!」
「ああ、そうだな」
いつもの明るさを取り戻し、キールがカイルに話しかけると、カイルもつられたように微笑む。
今はふさぎ込んでいる時ではない。とにかく前に進まなくては。
「でも、私はその赤い瞳の男の顔を、よく覚えていないんだよね」
邪悪な炎に彩られた赤く輝く瞳の印象が強すぎて、サルフィスは男の顔を覚えていなかった。
「そう言えば、俺もあんまり覚えてないなあ」
言われてみればと、キールもサルフィスに頷く。強さに圧倒され、本人自体に印象がない。
「カイルは覚えている?」
サルフィスに聞かれ、カイルは男の顔を思い浮かべてみる。
やはり、始めに思い浮かぶのは、赤い瞳。それから、背中。自分を助けてくれた時に見せた、大きくて広い背中…
「…」
なぜか、ふと胸が締め付けられた。
そして、カイルは自分が、あの男に助けられてもらったことに、対して疑問を抱いていないことに気づいた。
「…どうして」
そして、カイルは今はじめて、男が自分を助けたことに疑問を抱いた。
「どうして、あの男は敵である俺を助けてくれたんだろう?」
独り言のように呟くと、キールとサルフィスはそれを聞いて、動きを止めた。
「そう言えば、そうだよな」
言われてキールも疑問を抱く。
「…」
サルフィスもじっと考え込んでいた。
「…カイルは、男の顔を覚えている?」
そして、サルフィスは同じ質問をカイルに繰り返した。
「えっ?」
「何でもいいから、言ってみて」
真剣に問われ、カイルは必死に男の姿を頭に思い浮かべる。
「えーと、髪の色は黒。ちょっと釣り目で、あまり表情に変化がなくて無愛想なイメージを持った。それで…」
頭をひねり、懸命にカイルは男の顔を思い出していく。
「唇の右下にほくろがあったような気がする」
自信なくカイルが言った言葉にサルフィスは大きく頷いた。
「…やっぱり…」
誰にも聞かれないように呟き、サルフィスは立ち上がる。
「どうしたんですか?サルフィス様?」
急に立ち上がったサルフィスを見て、キールが声をかける。
「ちょっと急用を思い出したよ。失礼するね」
にっこりと微笑み、サルフィスはカイルの家を出て行く。
いきなりのサルフィスの行動に2人は目をしばたたかせる。
「どうしたんだろう?」
「さあ?」
顔を見合わせ、首をひねる。
サルフィスがその後、1人で洞窟へ行ったと判明するのは、翌日の朝のことだった。