誓いの未来へ11
敵の数が異様なほど激増した。
やはり、あの×印に何かあるのだ。2人はそう、確信しながら無我夢中で目的地へと急いだ。
「この角を曲がればすぐだ!」
敵を剣でなぎ払い、キールが曲がり角を曲がる。
「っ!!」
瞬間、キールの表情が変わる。喜びや疑い、様々な感情が入り乱れている表情。
「どうした?キール」
ただ呆然と立っているキールに近づこうとするが、
「来るな!」
制止されてしまう。
カイルが止まったことを確認して、キールがゆっくりと歩き出す。角へ消えたキールにカイルは眉をしかめる。
一体、曲がり角の向こうに何があるんだ?
このまま待っていても仕方ない。カイルは、一歩を踏み出す。
「うわあぁ〜!!」
その時、悲鳴と共にキールが吹っ飛ばされ、壁にぶち当たってきた。
「キール!!」
角の向こうにいたのは敵だったのかと、カイルがキールをかばうように前に立ち、
「っ!!」
その人物を見て、息を止めた。
それは幼い頃から共に育ってきた親友、そしてカイルが助けたくてやまなかった人。
「…シェルク」
そう、シェルクだ。
カイルはシェルクを見つけたのに、その場から動くことが出来なかった。
シェルクの爛々と光る赤い瞳、そして胸に抱かれた秘石。
カイルはこの光景を知っていた。秘石に触れ、幻像を見て以来、何度も何度も夢で見た。
「カイル…」
シェルクが苦しそうにあえぐ。何かと必死に戦っているかのようだ。
「気をつけろ、カイル。シェルクは操られている…」
背後からキールの声が届く。切れ切れの声。怪我はひどいのだろうか。
だが、カイルにはキールの様子を見る余裕がない。シェルクから目を逸らすことが出来なかった。
赤い瞳、まだ正気の色をたたえているが、それがいつ切れるかわからない。シェルクは今、内にいる魔王と懸命に戦っているのだ。
「シェルク!!」
足を踏み出すと、シェルクから赤い波動が発せられる。微々たるものだが、もう一歩踏み出せば、キールのようにダメージをくらうだろう。
「近づいたら駄目だ!!」
シェルクが頭を振り、忠告してくる。自分では、赤い波動のコントロールが出来ないようだ。
「カイル…」
切なそうな瞳で見つめられると、カイルは心臓を掴まれたような痛みを覚える。
こんなにも近くにシェルクがいるのに、カイルはシェルクを助けることが出来ない。自分の弱さが歯がゆい。
「カイル、お願いがあるんだ」
ふっとシェルクが笑みを浮かべる。痛々しい、悲痛な決意を込めた笑み。
カイルは、あの幻像が近づいてきている事を悟った。
シェルクが森で泣いていた時から、この時が来ないように力を蓄えてきたのに。
「カイル…」
シェルクは秘石を胸に抱いて微笑んだ。
「僕はもう駄目だ。だからせめて、君の手で…」
シェルクが誘うように手を差し出す。そして悲しげに目を伏せ、
「僕を殺して」
囁いた…
「嫌だ!嫌だ、シェルク!!」
ついにあの悪夢が現実になってしまった。カイルの感情は爆発し、弾けたようにシェルクの元へ走り出す。
「カイル!」
シェルクは目を見開く、その無謀な行動に涙が溢れ出す。
カイルは、魔王に操られ、みんなを脅かす存在になったシェルクを倒すことが出来ない。その気持ちがシェルクの心を温かく満たしていく。
赤い波動が弱まっていく。カイルは、波動の中を真正面から突き進んでいく。傷つき、ボロボロになっても、カイルの歩みは止まらない。
「カイル!!」
2人の距離が近づき、シェルクが手を延ばす。その手を取ろうとして、
「よく来たね、カイル」
シェルクがガラリと変わった。
「っ!!」
シェルクが乗っ取られたことに気づいた時には、カイルはすでに宙を舞っていた。
床に打ち付けられ、意識が薄れる。
「カイル!!」
シェルクが叫び声をあげる。自分のしたことが信じられないようにカイルの傷ついた姿を震えた瞳で見つめていた。
「カイル!来るぞ!!」
背後からキールの叫び声が聞こえ、カイルはシェルクを見上げる。
秘石を持つ手から、強力な赤い波動の塊が出ている。もう一度、あれをくらったら、カイルの命が危ない。
「くそっ!」
カイルは避けようとするが、体が言うことを聞いてくれない。
「嫌だ…誰か、誰か僕を止めて!!」
シェルクが内なる魔王と戦うが、赤い波動は膨れ上がって行く。瞳が極限まで開かれ、シェルクが声にならない声をあげる。
最後の抵抗もむなしく、シェルクの手から赤い波動が振り下ろされる。
「!!」
避けられない。
瞳を閉じ、カイルは死を覚悟した。
「…」
だが、いつまで待っても衝撃は訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、目の前に誰かの背中が見えた。
キールではない。キールはカイルの背後で動けないほどの傷を負っているのだから。
「…どうして…貴方が?」
シェルクの声が聞こえた瞬間、目の前の背中が消え去る。
一瞬のことで、カイルは消えたのかと思ったが、その人物はシェルクの前へと移動していたのだ。
「おまえは!!」
カイルを助けたのは、赤い瞳の男だった。
カイルがその人物を知るやいな、男はシェルクのみぞおちに拳を入れる。
声もなく倒れるシェルクを、男は無造作に肩に担いだ。
そして、振り返り、カイルに挑戦的な笑みを向ける。
「シェルクを返せ!!」
痛みなど物ともせずに、カイルは立ち上がる。再び、男にシェルクを奪われるのを黙って見ているわけにはいかない。
男はカイルの鋭い目を認め、身を翻し、走り出す。
「待てっ!!」
カイルは、頼りない足取りで男を追いかけ出した。