誓いの未来へ1





序章

 カイルは闇に閉ざされた森を走っていた。
 葉で体中を刻まれても気にならないほど、カイルの心はある一人の人物に捕らわれていた。
「シェルク!!返事をしてくれ!」
 叫びすぎて声がかすれてしまってもカイルはシェルクを呼ぶことをやめない。
 シェルクが、魔王が降臨してきそうなほどの重圧を持つ森に、たった一人ぼっちでいる。それを思えば自分の喉などどうでも良かった。
 早く、シェルクを助けてあげねばならない。
 カイルの頭の中はそれ一色だった。
「…イル?」
 近くでか細い声が聞こえ、カイルは立ち止まった。
「シェルク、いるのか!?」
 カイルが声を張り上げると、茂みの奥から人影が出てきた。
「カイル?どうしてここに?」
「どうしてって、シェルクを探しに来たんだよ」
「僕を?」
 シェルクが不思議そうに目を瞬かせる。
 どうして自分を助けに来たのかわからないと言わんばかりのシェルクにカイルの頭に血が上りかけるが、シェルクの瞳が真っ赤になっているのを見て口をつぐんだ。
 カイルがシェルクを探しに夜の森にやってきたのは、シェルクの父親である村長がシェルクを知らないかと問われてすぐだった。
 その日は、シェルクが村の秘密、秘石を初めて見た時のこと。
 秘石とは村が守っている真っ赤な石で、魔王の命だと言われている。村の外れの森には魔王を封印した洞窟があり、その魔王の命が秘石なのだ。
 村長はその秘石を代々守っている家系で、次期村長であるシェルクは10の誕生日の今日、秘石と対面することになった。
 秘石を守る守り人の話だとシェルクは秘石を相当怖がっていたようだ。そのショックでシェルクが森の中に逃げ込んでしまったとカイルは考えていた。
「そっか、カイルは僕を探しに来てくれたんだね…」
 カイルの気持ちに気づき、シェルクが表情を暗くする。
「ごめんね、カイル」
 シェルクは涙ぐみ、しゃがみこんでしまう。
「何言ってるんだよ、シェルク。俺たちは兄弟同然で育ってきた仲じゃないか!」
 カイルとシェルクは幼い頃から一緒に暮らしてきた。カイルの両親が幼い頃に死んでしまい、村長がカイルを引き取ってくれたのだ。
 膝に顔をうずくませてしまったシェルクを元気付かせようと明るく声をかけるが、シェルクは顔を上げない。
「僕、村に帰れないよ」
 しゃくりをあげながら、シェルクが弱々しく頭を振る。
「秘石が怖いんだろう?大丈夫、あんな石っころに何が出来るんだよ」
 たかが石に、こんなに脅えているシェルクにカイルは苦笑する。しかし、顔を上げたシェルクは涙を流しながら、切にカイルに訴えてきた。
「違うよ、カイル。あの石は本当に魔王の命なんだ。僕は、あの石が怖いよ。いつか、僕の体を操り、洞窟へと連れていかれそうで…」
 シェルクの体が震えているのを見て、カイルはやっとシェルクの恐怖の大きさを知った。
「バカだなあ、シェルクは」
 カイルは優しく微笑み、震えているシェルクの体を抱いた。
「そんなの俺が守ってやるよ」
「カイル…」
 大きく瞳を見開くシェルクにカイルが大きく頷く。
「もしもシェルクが魔王に操られたら、俺が助けに行くよ。そして俺の手で魔王を倒すんだ!」
 カイルの輝くばかりの笑みにシェルクは希望の光を見た。
 カイルは自分を守ってくれる。シェルクはその時、素直にそれを信じることが出来た。
「今は俺、子供だけど、絶対秘石の守り人になってシェルクの側で守り続けるよ」
 堂々としたカイルの言葉にシェルクは小さな笑みを浮かべ、カイルの胸に頬を寄せる。
「うん、信じる。信じるよ…」
 シェルクはカイルの強さに守られながら、あることを誓った。
 自分は魔王の誘惑に負けはしないということ。そして、絶対にカイルをこの手で守るということを…



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