door-reiya2





 これが俺の運命を決める!
 それくらい怜哉はくじを選ぶのに真剣だ。たかが席替え、されど席替えと言うのに怜哉はもう1分ほどくじの入っている箱に手を突っ込んだまま必死でくじを選んでいる。
 俺を含め、まだくじを引いていないクラスメートは、呆れながらも怜哉が発している異様なオーラに近付くことも声をかけることもできずに遠巻きに見守っていた。
「これだ!」
 怜哉の目がキラリと光る。勢い良く取り出したくじを見て、
「15番だ!」
 叫び、怜哉は素早く黒板に目を走らせる。黒板には席順がかかれており、怜哉の引いた15番は真ん中の席の列の前から3番目だった。
「私の隣じゃない」
 芹花が嬉しそうな声を上げる。
「私のななめ前だね」
 唯も嬉しそうに笑う。唯は芹花の後ろで怜哉のななめ後ろだった。
「よっしゃー!クラス一の美女、後藤さんのななめ後ろだぜ!」
 しかし怜哉は芹花と唯の喜びをよそに後藤さんの下へ向かい握手までしている。芹花の目が細められるのを俺は恐る恐る見た。俺は芹花の犠牲者を見たくなかったので怜哉を放って、くじの入っている箱のある教壇に逃げた。後ろから怜哉の悲鳴が聞こえてきたが、俺は振り向くことができなかった。許せ、怜哉。
「遠峰、早く引けよ」
 クラスメートに促されて俺は箱に手を入れる。俺は怜哉ほど席にこだわってないので考えもせずにくじを選び出す。だいたい選んだって良い席が引けるとは限らないわけだし。
「翔ちゃん、頑張って」
 何を頑張るんだか唯が後ろから声援を送ってくる。たかが席替えに熱くなっているみんなに半ば感心しながら、俺はくじを開いた。
 覗き込んでくる唯の顔にパアーっと笑みが広がっていく。
「16番、私の隣だ!」
 唯の声を聞き、芹花と怜哉も駆け付けてくる。
「本当かよ、やったぜ。翔!」
「何だか上手くいき過ぎね」
 手放しに喜ぶ唯と怜哉と違い、芹花の冷めた物言いに俺は同感だった。
 こんなマンガみたいな展開でいいのか…
「良かったね、翔ちゃん」
 だがそんな俺の不審も唯の嬉しそうな笑顔にきれいさっぱり流されていった。
「そうだな」
 デレデレとした俺の表情に芹花が溜め息をつく。馬鹿馬鹿しいと芹花の顔には書かれてあった。
「よろしく、後藤さん」
 怜哉はまた隣になった後藤さんと握手をしていた。後藤さんは見るからに嫌がっている。
「お前らいい加減に席につけ!」
 浮かれまくっている俺たちに担任が一括する。担任もたかが席替えでこんなに浮かれまくるとは思いもしなかっただろう。担任が一括しても静かになるどころかうるさくなる一方だった。
「静かにしろっ!」
 ついに切れ担任が怒鳴り声を上げる。この時の怒鳴り声は隣や上下のクラスどころか3クラス先でも聞こえていたらしい。



『next』     『novel(BL)-top』