雪降る聖夜に12
冬休みも終わり、新学期。
幸太郎は、明日香を迎えに明日香の家までの通路を気が乗らない足取りで歩いていた。
平太と別れたショックで、また部屋に閉じこもってしまうのではないかと危惧してのことだが、今度ばかりは明日香を立ち直らせる自信がなかった。
曲がり角を曲がれば、明日香の家だ。幸太郎は大きく深呼吸をして、気を取り直し勢い良く角を曲がろうとした。
「わっ!!」
「うわぁ!!」
しかし、曲がろうとした瞬間、誰かが飛び出して来て、幸太郎は驚きの声をあげる。
「わ〜い!引っかかった!!」
成功して飛び跳ねて喜んでいるのは明日香だ。
「明日香…」
まだバクバクしている心臓を押さえ、幸太郎は元気いっぱいの明日香に意表をつかれる。
「おはよ!幸太郎。絶対来ると思ったよ」
いつもの明日香の笑顔を見て、幸太郎は肩の力が抜けたと同時に、自分の行動を見抜かれていて気恥ずかしかった。
「ああ、新学期だからな」
つい、言い訳をしてしまうが、上手い言い訳ではなかった。
明日香がクスクスと笑うのを見て、幸太郎は怒ったような表情になる。
「あのなあ、これでもお前を心配して来たんだぞ!」
「うわぁ〜!幸太郎が怒った」
強い口調の幸太郎から逃げるように、明日香はおどけた様子で駆け出す。
それを見て、幸太郎は溜息をつく。どうやらいらない心配だったようだ。
明日香は振り返り、満面の笑顔を浮かべる。
「心配してくれてありがと!幸太郎。でも私は大丈夫。元気さ!」
ガッツポーズを浮かべ、明日香は空を仰ぐ。
空には澄み渡るような青空だ。まるで明日香が初めて屋上に行った時のように。
あの時の空はもうないけれど、平太はもういないけれど、平太と交わした約束は残っているから。
クリスマスに平太は明日香の願いを叶えてくれた。だから、今度は明日香が平太の願いを叶える番なのだ。
明日香らしく、明るく、元気いっぱいに輝くこと。そして、生きていくことが平太の望みなのだから。
泣きたくなったのを明日香は力を込めて我慢した。冬休み中にたくさん泣いた。もう泣かないように、くじけないように。だから、もう泣かない。
「よ〜し!幸太郎、学校まで競争しよう!負けたら昼食一週間分おごるんだよ」
言って、明日香は走り出した。
「何だ、それ!?おい、待て!!」
すでに走り出した明日香を追いかけ、幸太郎は慌てて後を追う。
2人の笑い声はこだまして大空へと溶け込んでいった。
(終)
♪この小説のご感想心よりお待ちしております♪
+――――――+
| 感想を送る |
+――――――+