クラスも違う。部活も違う。
 共通しているのは学年だけ。
 それなのに俺たちはこの広いような狭いような学校の中で友達になることが出来た。
 顔を見たことある、名前を知ってるだけの知り合いじゃない。
 ちゃんとした会話ができる友達だ。
 出会ったのは渡り廊下にある自動販売機。
 この渡り廊下は滅多に使われることがない人気のないスポット。
 そこにポツンとある自動販売機は変な飲み物がギシッリつまっていることで有名だ。
 おしるこ、コーンポタージュ、みかんゼリージュース(ゼリーが固まってプルトックから出てこない)、ナタデココジュース(みかんゼリーと同じくナタデココが出てこない)…etc
 もちろん利用者は少ない。
 俺も普段は利用しないけれど、その日はたまたま遊び感覚でその自動販売機に来ていた。
「う〜ん」
 その自動販売機の前に立つと、いつも唸ってしまう。
 どれを買えばいいのか迷うのだ。
 なんせ当たりがない。外れしかないのだから迷うのは当然だ。
 しかし、俺はこの迷う時間が嫌いじゃなかった。
 そして迷った果てに買った飲み物がゲロまずでも何故か外れをひいた気分にはならない。
 外れるのを承知で外れをひいているからだろうか?
 とにかく、俺はこの自動販売機が嫌いじゃなかった。
 ここでは俺は気が済むまで迷うことにしている。
 この自動販売機の唯一の利点といえば人気がないことだった。
 いくら迷っても人を待たせることがない。
 後ろに並ばれて急かされることがないのだ。
 だから、ゆったりとした気分でいられる。
 この日もいつものように時間をかけて迷っていた。
 しかし、この日はいつもと事情が違った。
 なんと人がやって来たのだ。
 てっきり、そのまま通り過ぎるかと思っていたら俺の後ろで止まった。
 この自販で買うのか!?
 俺は後ろに並ぶ奴の正気の沙汰を疑った。
 ここはまずいのしかないんだぞ!
 自分のことを棚に上げて、後ろの奴を説得したい気分に駆られる。
「まだですか〜?」
 ずいぶんの間悩んでいたのか、後ろの奴がじれったそうに聞いてくる。
「ああ、ごめん」
 俺は自動販売機に目を走らせる。
 だが、まだ迷いの途中だ。どれを買うかは選べそうにない。
 俺は諦めて、相手に先を譲ろうとした。
 横にどけ、
「どうぞ」
 後ろに並んでいた奴に譲る。
「え?いいの?」
 相手は急かしてまずかったのかなと顔を曇らせる。
「俺、優柔不断だから」
 その場の雰囲気を和ませるように、ふざけた口調で笑う。
 すると相手も遠慮がちに笑った。
 相手は自動販売機に立ち、選び始める。
 目線が上から下へ一往復して、また上に戻る。
 やっぱり迷うよな〜
 相手に失礼にならない程度に横目で見ながら、自分と同じだと思った。
 相手が片手でお金をもてあそびながら選んでいると、その中から1枚こぼれ落ちた。
 チャリーンと高い音がして渡り廊下に転がる。
「「あ!」」
 同時に声を上げ、しゃがみ込む。
「「あ」」
 弾むように逃げていくお金に2つの手が重なった。
 驚いて顔を上げると、相手の顔が近くにあって更に驚く。
 視線が近い。触れた手が暖かい。
「へへ。ありがとう」
 相手が照れたように笑った。
 恥ずかしい話だが、俺はその一瞬で恋に落ちた。
 滅多に人の来ない渡り廊下にゲロまずい飲み物しかない人気のない自動販売機で偶然、たまたま俺たちは出会った。
 もし気が向かなかったら、時間が合わなかったら、俺たちはきっと友達になっていなかった。
 そして重ね合わされた手と手。
 乙女チックかもしれないけれど、これに運命的なものを感じないほうがどうかしてる。
 雷に打たれたような衝撃はなかったけれど、その後彼に会うたびにそれは徐々に浸透していった。
 しかし残念なことに彼は俺と同じように感じなかったらしい。
「俺、好きな人ができた〜!」
 彼はどうやら惚れっぽくて次から次へと恋に落ちる。
 終わりもはやいもので、すぐに飽きたり、相手に恋人がいて失恋したり。
 だから俺が慌てたのも最初に内だけだった。
 今はただ祈るのみ。
 はやく俺に気付いてくれ。俺との運命的なものを感じとってくれ。
 あの日から、すっかり日課になった逢引を繰り返しながら、俺は心から祈った。
 相手は俺の心など知らずに能天気な面してゲロまずジュースを飲んでいる。
「まっじー」
 一口飲んで、べえと舌を出す。
「それで?今日は誰を好きになったんだ?」
 からかい口調で聞いてやる。
 彼は一週間前にふられてから、好きな人ができていない。
 そろそろ次の相手が現れるはずだ。
「…おまえ、俺のことバカにしてない?」
「ちょっとな」
「むぅ。やっぱり」
 彼は少しすねて見せるが、自覚症状はあるらしい。
 困ったような表情で缶を揺らす。
「なーんか、いつもの調子がでないんだよね」
「できないのか?好きな人?」
 俺の問いに彼はコクリと首を動かす。
「誰を見てもトキメかない。ここにいるほうが楽しい」
「…」
 最後の言葉って意味ありげじゃなかったか?
「おまえといるほうが楽しいや」
 彼は照れたように笑みを浮かべ、ジュースを飲む。
「そっか…やっと気付いたか」
「なにが?」
「いや、なんでも」
 やばい。口が滑ってしまった。
 でも、まだ…
 チラリと彼を見る。
 恋にはなってないんだろうな。
 先はまだまだ長い。
 彼はまずそうに残ったジュースを飲んでいた。
 彼が運命的ななにかを感じ取るまでお互い多くのゲロまずジュースを飲むことになりそうだ。
 でもそれは幸せのためのステップだから喜んで飲んでやるさ。



(終)

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