空からポツリポツリと雨粒が落ちてきた。
「げー、雨降ってきやがった!」
隣りを歩く恋人が眉を潜め、大げさに喚く。
学校からの帰り道。
あと少しで家に着くという場所まで来ていたのだから、大げさに喚いてしまう恋人の気持ちもわかる。
「俺、傘持ってないんだよな〜」
空を仰いだまま恋人はポツリと呟く。
雨はどんどん大粒になっていて、その内どしゃ降りになるだろう。
それでも恋人は走る気もなく、呑気に空を見上げている。
「あ。俺、持ってる」
常備している折りたたみ傘を鞄の底から取り出す。
それを見て、恋人がまた眉を寄せる。
「? なに?どうしたの???」
濡れずにすむんだから喜ぶところじゃないのか?
不思議に思いながら傘を開く。
恋人はふんっと鼻を鳴らした。
「折りたたみ傘なんてカッコ悪いもん、持ってられるかよ!」
「…」
これには思わず絶句してしまった。
折りたたみ傘=カッコ悪い。どうしてそうなるんだろう?
「男なら黙って濡れろってーのっ」
鼻息荒く言い捨てて恋人は濡れたまま歩いて行く。
「ちょっ!待ってよ!」
小走りに恋人を追いかける。
追いつき、恋人を傘に入れると睨まれてしまった。
折りたたみ傘なんか差したくねーよ!
と、無言で訴えかけられているのがわかる。
でも俺はそれを無視して恋人に傘を差す。
「…あのなー」
黙っていては伝わらないと思ったのか、恋人がイライラと口を開く。
「俺はさ」
恋人を遮るようにして先に切り出した。
「恋人を雨に濡らす奴のほうがもっとカッコ悪いと思う」
「うっ…」
サラリと言うと恋人は押し黙ってしまった。
そして、また無言で俺を睨みつけてくる。
でもその顔は真っ赤でちっとも怖くない。
俺は微笑み、恋人のほうへ傘を傾けた。
恋人は何も言わなかった。
フイッと顔を背け、大股に歩き出す。
「もっと、ゆっくり歩こうよ」
濡れる心配がないんだから急ぐことなんてないよ。
俺が歩調を緩めると、恋人も歩幅を小さくした。
「やっぱり折りたたみ傘はカッコ悪い」
顔を背けたまま恋人が小声で言った。
「だからさ、俺は持たないからな」
「…うん」
その言葉の意味を受け止め、俺は大きく頷いた。
小さ目の折りたたみ傘に肩を寄せ合い2人で歩いた。
(終)
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