真夜中の公園でやけ酒を飲む。
 ブランコに腰かけて、近くのコンビニで買った安い酒を片っ端から開けていった。
「もうやめたら?」
 隣りで呆れるような表情をする友人。
 俺はその忠告を無視して半分ほど残った缶を一気に飲み干した。
 プハッと息を吐く。
 手にある缶を遠くに投げ捨てる。カラカラと転がっていく。
 缶がとまったところを見届けて、俺は空を見上げた。
 夜空には星が散りばめられていた。
 空気が汚いからくすんでいるが、これはこれでキレイとも言える。
 でも、ハッキリと輝かない光に少しだけ悲しさが募った。
 その悲しさを消すために酒に手を伸ばす。
「もう、やめろって」
 酒のつまったコンビニ袋を友人が奪ってしまう。
「返せよ。俺が買ったんだぞ!」
 ろれつの回らない声で怒鳴れば、友人は怖がるどころか深い溜め息をついた。
「相当、酔ってるな」
 そんなの自覚してる。
 でも酔っても酔っても忘れられないんだ。あいつのこと。
 二股かけていた恋人。俺よりも浮気相手をとりやがった。いや、もしかしたら俺の方が浮気だったのかもしれない。
 でも、そんなことはもうどうでもいいんだ。結果は俺が捨てられたんだから。
「あ〜あ」
 情けない声が口を出る。涙まで出てきそうだ。
「だから俺はあんな奴やめとけっていったんだ」
 知ってたよ。あいつには悪い噂しかなかった。ろくでもない奴ってことは知ってたんだ。
「…でも好きだったんだ」
 言い訳がましく言えば、友人はチラリと横目で見て、
「二股までかけられたのに?」
 信じられないとばかりに言い返してくる。
「そんなの関係ない。好きなものは好きだったんだ」
 恋愛に理由なんてない。
 惚れたほうの負けなんだ。
 俺のほうがあいつに惚れてた。だから、こんな酷い状況になったんだろう。
「もう諦めろよ」
「諦めるさ!もう終わったんだからっ」
 ずっと辛かった。あいつが本気じゃないってわかってたから。
 でも自分では終わらせることができなかった。だって、好きだったんだ。
 最悪な奴でも好きだったんだ。
 悔しくて悔しくて涙がにじみ出てくる。
 なんで、あんな奴を好きだったのか自分でもわからない。
「今度は絶対俺に惚れてくれる奴と付き合うっ…」
 涙混じりに言えば友人は同情してくれたのか、缶を一つ差し出してきた。
「わかった。今日は好きなだけ飲め」
 俺は友人に涙を見せないように頷いて缶を受け取る。
 プルトックを開けようとするが力が入らない。
 何度も開けようと苦戦していると、
「ほら」
 友人がプルトックを開けた缶を渡してくれた。
「サンキュー」
 缶を交換して、酒を一気にあおる。
 グビグビと喉を鳴らし飲むと、酒特有の苦さが胸に広がっていく。
 苦さが胸につまって、それでもその苦さを流さそうと更に酒を飲む。
 辛くて苦しくて、でも飲みつづけていれば酒が全てを忘れさせてくれると信じて俺はどんどん缶を開けていく。
「…おまえも飲めば?」
 ふと隣りを見ると手持ち無沙汰に友人がブランコを軽くこいでいた。
 俺が話しかけると友人は動きをとめた。
「俺が酔ったらおまえを解放させる奴がいなくなるだろ」
 笑顔で言われ、泣きたくなる。
「おまえっ、いい奴だな〜」
 実際俺は号泣してしまった。
 腕で涙をぬぐっても、涙はとまることなく流れ続ける。
 友人は面白そうに俺の泣く様子を見ていた。
 でもその瞳は決してバカにしているようなものじゃなくて、どこか優しくて。暖かくて。
 だから俺は安心して泣いた。

 失恋の痛手を癒してくれるのは酒でもなく星でもなく、きっと隣りにいる友人なんだろう。
 そんな予感が胸をよぎった真夜中の公園。



(終)

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