キスとキスの合間に思い浮かぶもの。
それは…
「彼氏は元気?」
弟に問うと、弟は決まってはにかんだ笑顔を浮かべる。
恥ずかしそうな照れ笑い。ちょっと困ったように眉を寄せているけれど本当は惚気たいんでしょう?
「それならいいけど」
わかっていても聞いてなんてあげない。話を一方的に打ち切ってそっぽを向くと、弟は物足りなさそうに唇を尖らせた。
「兄さんは彼氏いないの?」
用はないとばかりに背を向けたのを見計らって弟が問いかけてくる。僕はそのタイミングに舌を巻きながらも振り向き、弟に見せつけるため艶やかに微笑んだ。
そうすると弟はほのかに顔を赤くしてうつむいてしまう。
普段から僕のことを大人っぽいと羨んでくる弟にはこの笑みが質問の答えになったようだ。
残念でした。不意打ち攻撃も動じません。
勝ち誇った気分でリビングを出る。背後で敗者の弟がクッションを抱えたまま俺をじっと見ていた。
弟が僕の恋人に興味を持ち始めたのはいつからなのか。
徹底的な秘密主義の僕の口をこじ開けようと頑張っている弟を前にすると、僕は疑問になってしまう。
どうして弟はこんなにも僕の恋人が誰なのかを知りたがるのだろうか、と。
僕は弟が嫌いじゃないし、できることなら弟の欲求にも応えてあげたいと思う。
だけどね。これだけは教えてあげられない。
何度も言うけれど僕は弟が嫌いじゃない。人並みの肉親の情は持っていると信じている。
だからこそ教えることができないのだ。
「ねえ…」
僕が甘える声を出すと恋人が顔を寄せた。ゆっくりと勿体つけるようなキスが僕は大好きだった。
目を閉じた恋人の顔を見つめながらキスを待つ。
唇が重なる直前に目を閉じる。キスするときに目を閉じることを暗黙の了解にしたのは、一体どこの誰なのだろう。
もし、その人に出会えたら僕は文句のひとつでも言いたくなる。
目を閉じると僕はいつも後味が悪くなることを思い浮かべてしまうから。
遠ざかる唇。一瞬でも離れていたくないのか、すぐに吸い付いてくる。
『彼氏は元気?』
わざわざ弟に問わなくても僕はその答えをとてもよく知っている。
僕にキスしている君の彼氏はとても元気に僕の唇を味わっているよ。
キスとキスの合間に思い浮かべるもの。
それは弟のはにかんだ笑顔…
(終)
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