こそこそと部室の隅でエロ話をしていた。
「おまえら、週に何回やってんの?」
 話の流れで質問され俺は答えにつまった。
 俺には男の恋人がいて、役割はいわゆる受けってやつ。
 部活の仲のいい連中はそれを知っている。
「え〜、っと…」
 興味津々といった様子で俺の顔を覗いてくる連中から目を逸らす。
 まずいことに俺の恋人は同じ部活仲間だった。
 当然こいつらは俺の恋人のことを知っている。
 だから余計に話しづらいし、恥ずかしい。
「そういうことは聞くなよ」
 返答の仕方を色々考えたが、睨みつけて黙らすことにした。
「相手はあいつだからな〜。週3回はいくだろ」
「いやー。あいつのことだから週4じゃね?」
 ところが俺の睨みなんてなんのその、連中は勝手に盛り上がりはじめる。
 ニヤニヤとエロい笑みを浮かべ、自分のことを話される日がくるなんて夢にも思わなかった。
「あいつ、獣だからな」
 イヒヒと連中が笑い合う。
「やめろよ!」
 耐え切れなくなって声を上げると、連中はいっせいに俺を見た。
 …なんか嫌な予感がする。
 連中は笑みで目を細めながら徐々に俺に詰め寄ってくる。
 俺はズリズリと後ろに引き下がるが、壁に当たり逃げ場を失った。
「なあ?実際は週何回なんだよ?」
「教えろよ〜、言っちゃえよ〜」
「なあ?なあ?」
 異様な威圧感を撒き散らしながら連中は俺を追い詰めていった。
 俺は観念して、ギュッと目をつぶり、ゆっくりと腕を上げた。
 そのまま手を広げる。
「…5回」
 小さな声で呟く。
「は?なに?」
「5回」
 大きな声を出そうとしたはずが、さっきよりも小声になってしまった。
 だが連中の耳には届いたらしい。
 一瞬、呆けたような顔をした連中だが、
「すっげー!マジかよ!」
「5回…5回って元気ありすぎだろっ」
 次の瞬間、爆笑していた。
 俺は腹を抱え苦しそうに笑う連中を見て泣きたくなった。
 やっぱり5回って多いよな…
 俺たちのHの回数が周りと比べて多いとは薄々気付いてはいたものの、こうやって笑われるのは辛かった。
 これも全部あいつのせいだ!
 この場にいない恋人のことを思うと腹が立つ。
「でも、なんかわかるよ。その回数の多さ」
「うんうん。俺もわかる」
 笑うのに飽きたのか連中はピタリと止め、今度は納得したように何度も頷き合っていた。
「なにがわかるんだよっ!?」
 不機嫌最高潮の俺は荒々しく聞く。
「あいつが獣なのも理由の一つだと思うけど…」
「もう一つの理由は…」
 連中がいっせいに俺を見る。
 だから、同時に向くのは怖いからやめろっ。
「「「おまえが淫乱だからだよな」」」
 みんなの声がキレイに重なった。

 恋人の手を振り払う。
「…今日、機嫌悪くないか?」
 あれから恋人と一緒に帰り、今は2人ベッドの中にいる。
 今日は絶対Hしねえ!
 俺は枕を胸に抱いたまま恋人に背を向ける。
 恋人は困ったように溜め息をついた。
 帰り道で一言も口を聞かなかったことも恋人を悩ませている原因なのだろう。
 だけどな、俺がこんなに不機嫌なのも全部おまえのせいなんだよっ!
 おまえが獣だから悪いんだ!
 俺はだんまりを決め込む。
 Hどころか話もしたくない。
「なあ、なんか言えよ」
 途方に暮れながらも恋人は俺の腰に手を回してくる。
「獣!」
 叫び、枕を恋人の顔に押し付ける。
「け、獣!?」
 びっくりしたようなショックを受けたような顔で固まる恋人。
「そうだよ!おまえが獣だから悪いんだ」
 だから俺は部活仲間にバカにされたんだ〜
「俺はな、おまえが獣って言われるのは気にしねえよ。本当におまえは獣だし、間違ってないからな」
 ぎゅうぎゅうと枕を押し付けながら一方的に捲し立てる。
「でもなっ!でも…でも…」
 ふっと腕から力が抜ける。
 その隙を見逃さず、恋人が枕を奪い取った。
「でも俺は淫乱なんて言われたくないんだーっっ!!!」
 わっと泣き出した俺に恋人はオロオロうろたえた。
「泣くなよ」
「絶対Hしないからなー。しても週4だからなー」
「わかった、わかった。週4で我慢するから」
 あやすように俺の背中をポンポンと叩く。
「週4なら淫乱じゃないよね?」
 グズグズと鼻を鳴らしながら問いかける。
「…たぶん」
「ん。じゃあ週4で」
「……週4でも多いんだけどな。本当は…」
「なんか言った?」
「いや、なんでも!」
 今度連中が聞いてきたら週4って答えてやる。
 そうしたら、もう「獣と淫乱」なんて言われないよね。



(終)

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