―小学校時代。

 俺は好きな子をいじめていた。
 いじめることによって相手の目を自分に向かせたかった。
 今、思えばアホだ。そんなことしたら嫌われるだけなのに。
 でもガキの俺は気付かなかった。
 好きな子に関わる手段がいじめしか思いつかなかった。
「木口(きぐち)くん、返してよ!」
 俺よりも背も低くて、体格も悪い富浦(とみうら)が俺に適うわけがない。
 俺は富浦のノートを奪って、いじめていた。
 取り返そうと必死になって俺の周りをチョロチョロする富浦は可愛い。
 俺は気分を良くして富浦をいじめていた。
 そんな俺の姿を見て友達も加わりたくなったらしい。
「富浦のシャーペンもらったー」
 富浦のノートに気を取られているうちに友達がシャーペンを盗っていた。
「ああ〜」
 富浦が顔を向けるがもう遅い。
 友達は意地の悪い笑みを浮かべて、からかうようにシャーペンを高々と振り回す。
「返して!」
 富浦が俺から離れて友達のところへ走っていく。
 思い返せば俺は短気なガキだった。
 いじめという名の下、富浦とスキンシップを計っていた時に邪魔をされてブチッと切れた。
「おいっ!」
 自分でもびっくりするぐらい剣呑な声だった。
 富浦はおろか、友達までも顔を強張らせた。
「富浦をいじめるんじゃねーよ!」
 友達は俺の言葉を聞いて目を丸くした。
「…なんでだよ?おまえだっていじめてんじゃん?」
 それは当然の言い分だった。
 しかし、そんな言い分が俺に通じるわけがない。
「俺はいいんだよ!」
 なにが?
 友達は声にできないぐらい固まっていた。
 それぐらい俺が怖かったらしい。
「富浦をいじめていいのは俺だけなんだよ!」
 訳のわからないことでもキッパリと言い放てば、それなりの効果はあるらしい。
「あ、ああ。ごめん」
 友達は何故か謝り、富浦にシャーペンを返した。
 そして、そそくさと逃げていく。
 返されたシャーペンを不思議そうに富浦は見ていた。
「なんで?」
 シャーペンを見たままポツリと呟く。
「なんで僕をいじめるの?」
 その答えに俺はまたブチッと切れた。
 そんなこともわからないのか?
 わかるわけねーだろと今なら突っ込みをいれたいところだが、その時の俺はマジだった。
 アホだった。
「おまえが好きだからに決まってるんだろっ」
「え?」
 富浦はとても驚いていた。
 それも、すっごく。
 しかし、富浦は俺をじっと見つめ、それが本当のことだとわかるとニッコリ笑った。
「そうなんだ。僕、嫌われてるかと思ってた」
「んなわけないだろっ」
「そっか、えへへ」
 こうして俺たちはいじめっ子といじめられっ子の関係から抜け出すことができた。
 俺の初恋。
 甘酸っぱい思い出…になってくれたらよかったのに…


―中学校時代。

 あれから少しは俺も大人になった。
 もう好きな子をいじめたりしない。
 そんなことしても嫌われるだけだということに気付くことができた。
 でも、それは少し遅かったみたいで…
「木口くーん!」
 富浦が全速力で走ってくる。
「ねえ、助けてよ。僕、またいじめられそうだよ!」
 友達になってみてから気付いたんだが、富浦は生粋のいじめられっ子体質らしい。
 理由もなく目をつけられ、いじめられる。
「またか…」
 俺は深く溜め息をつく。
 富浦をいじめっ子から助けるのはこれで何回目だろう。
「俺をいじめていいのは木口くんだけなんでしょ?」
 いや、俺はもういじめない。
「助けてくれないの?」
 そんな上目遣いで頼み込まないでくれ。
 こっちはおまえが好きなんだから断れなくなるだろ。
 …ま、断る気もないけどな。
「相手は誰なんだよ?」
「っ!!ありがとう、木口くん!」
 ニッコリと富浦は笑う。
 俺とこいつの関係。今はどうなってんだろう?
 俺ってこいつの用心棒?子守り?
 どうも友達とか恋人とかピーンとこないんだけど…
 こいつ、俺の告白の返事もまだだし。
 良い様に使われているとしか思えない。
 見た目と反して意外としたたかな富浦。でもそんなところも子悪魔みたいで可愛いと思ってしまう。
「じゃあ、行くか」
 こいつのいじめっ子を撃退し続けたおかげで腕っ節はかなり上がった。
 別に嬉しくないけど…
 腑に落ちないながらも、富浦を放っておけない俺は自分の情けなさに嫌気が差す。
「木口くん」
 その横を頼もしい味方を得たと大手を振って歩く富浦。
「なんだよ」
「だ〜いすきっ」
 言って恥ずかしそうに富浦はパタパタと走っていく。
 完全な不意打ちに俺は呆然とその場に突っ立っていた。
「え?…え?おいっ!」
 小さくなっていく富浦の背中を追って走る。

 これからも変わらずに富浦はいじめられ、それを俺が撃退する日が続くだろう。
 明らかに利用されているのに逆らえない俺はガキの頃と同じアホだ。
 でも、それはそれ。これはこれ。
 どうやら富浦も少なからず俺を好きでいてくれているみたいだから。
 これはこれで幸せ、だな。



(終)

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