恋人の機嫌が悪い。
 原因はわかっている。俺が獣だからだ。
 俺が獣だからHの回数が多くなる。それを話の種に部活仲間からからかわれる。
 それが恋人の機嫌が悪い理由の一つ。
 でも、その他にも原因があることを俺は知っている。
 その原因も俺が獣だからなんだが、こっちは用意しておいたプレゼントで解消されるだろう。
「え?どうしたの?突然」
 なんの前触れもなく恋人にプレゼントを渡した。
 びっくりしたものの恋人は嬉しそうだった。
 少し機嫌が直ったように感じる。中を見れば、もっと喜ぶはずだ。
「開けてみろよ」
「うん!」
 恋人は早速プレゼントを開ける。
「…」
 そして中を見て固まった。
「どうだ?嬉しいだろ?」
 俺が聞くと、恋人はこめかみをピクピクと引きつらせた。
「…なに、これ?」
 おや?おかしい。
 不穏な空気が流れている。
 予想していた展開とまるっきり正反対だ。俺は首を傾げる。
「痛いんだろ?」
「…なにが?」
 プレゼントを強く握りしめながら恋人は低い声音で尋ねてくる。
 う〜ん、ますます怪しい雲行きになってきたぞ。
「痛いと思ったからプレゼントしたんだが…」
「だから!どこが痛いってゆーんだよ!」
 恋人は爆発したかのように声を大きくして、プレゼントを俺に投げてきた。
 俺はそのプレゼントを受け止め、
「だから、ケツが」
 真ん中に空洞が出来ているクッションを眺めながら言う。
 俺が恋人にプレゼントしたのはドーナツクッション。
 ケツに負担がかからない痔の人の強い味方だ。
 ちなみに俺の親父は痔だ。このクッションも親父のアドバイスをもとに買った。
「これ、楽になるらしいぞ」
 長年、痔で苦しんでいる親父のお墨付きなんだが。
 なにが気に入らなかったんだろう。…色か?
「おまえ、デリカシーなさすぎなんだよ!!」
「そうか?俺は自分がおまえを苦しませてると思ったからなんとかしてあげたいと思っただけなんだ」
「そういう気の使い方はもっと考えてやれ!」
 恋人は不機嫌を通り越して怒ってしまった。
 どうやら俺は間違っていたらしい。
「ってゆーかさ。そんな心配するなら回数減らしてくれよ」
「? 週5から週4にしただろ?」
 それだって俺にしてみれば辛い決断だったんだ。
 本当は毎日したいぐらいだが、そんなの口にしたら怒るどころじゃすまされないから言わない。
 俺の言葉に恋人は非難がましい視線を送ってくる。
「俺、また淫乱って言われた」
「なんで?」
「回数が多いから」
 また、あの連中は余計なことを…
 溜め息をつくと恋人に睨まれた。
「淫乱って呼ばれる俺の身になれよっ!回数減らせよ!!」
「何回にすればいいんだよ?」
「えっと、今が3回だから…これからは1日2回まで!」
 恋人が2本指を立て、俺に突きつけてくる。
 週4の1日2回か…少ないな…
 俺はまた溜め息をつく。何度も何度も。
「おまえねー。これでも俺は譲歩してやってるんだぜ。おまえが獣だから多めにしてやってる俺の優しさわかってんの?」
文句言うなよ。逆らうなよ。と恋人は言う。
 はじめから恋人に逆らう気なんてない俺は黙って頷いた。
「まあ、そういうことだから。俺は帰るよ」
「え?もう帰るのか?」
「これ以上2人きりでいたらおまえ獣になるだろ」
 そう言われたら何も言えなくなってしまう。
 たぶん、恋人の言う通りになってしまうだろうから。
「じゃあ、これは一応もらっとくからな」
 俺の前に投げ出されていたドーナツクッションを取り上げる。
「使わないけど、一応な」
 横目でチラリと俺を見て、恋人は部屋を出て行った。
 俺は見送る元気もなく、その場に寝転がる。
 …週4の1日2回まで…少ないよな…
 先のことを考えると、ため息はとまらなくなる。
 まあ、でも。
 その約束も長くは続かないだろう。
 なぜなら恋人は淫乱だから。
 きっと放っておけば向こうから誘ってくるに決まってる。
 はやく自分で認めてしまえばいいのに…
 獣と淫乱。
 俺たち、お似合いのカップルだと思うんだけどな。



(終)

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